褪色する春＿skab

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「阿部ちゃん。」


意識の遠いところで柔らかく呼ばれる名前。


「阿部ちゃーん。」


次はもっと近くでもう一度呼ばれた気がする。
…ん？
あっ。


「あ、起きた。」


そうだ、徹夜明けで佐久間んち来て、それで寝て…。


「おはよ。」
「おはよう。
ごめん、俺ずっと寝て、」
「お疲れだったんだから良いんだって。
でもお昼作ったから阿部ちゃんと食べたいなーと思ってちょっと起こしてみちゃった。」
「ありがと…。」


もうそんな時間なんだ。
起きなきゃと手で目をこする。


「阿部ちゃんの分もよそってくるから顔洗っといで。」
「ん。」


頷いたらまた頭撫でられた。
朝から何すんだ。
もう昼か。
じゃあ昼からキュンとさせるな。
…だってこんなの、嬉しすぎる。



佐久間が作ってくれたお昼はネギトロ丼だった。
しっかり食べられるけど優しい食感とか醤油の香りとか、生活リズムが崩れて疲れがなんとなく残った体に嬉しい。


「うまぁ。」
「そりゃ良かった。」


ほんと至れり尽くせりだよ。


「お味噌汁もありがとう。
帰ってきたーって感じがしてなんかほっとした。」
「良かった。
じゃあ改めておかえり、阿部ちゃん。」
「、ただいま。」


こんな近くで言い合うの照れちゃうな。
えへへと笑って照れ隠し。
いや照れが漏れちゃってるの間違い？


「前はうどんも作ってもらったし、佐久間には色々してもらってばっかりだよ。」
「阿部ちゃんの第二の家だからね。」
「ほら、そうやって佐久間が優しすぎるから俺どんどん甘えてる。
…あ、そうだ。
明日のお昼は俺が作る。
どう？」
「え、まじ？
良いの？」
「うん、佐久間みたいに料理慣れてないけど…。
キッチン貸してくれる？」
「勿論。
え、めっちゃ嬉しい。」
「待って、勝手に頭の中でハードル上げないでよ？
実家暮らしで全然したことないから。」


ほんと、そんな期待を込めた目で見ないで…。
逆に俺が不安になる。


「んははっ、作ってくれるだけで嬉しいから大丈夫。」


ああ、また優しい。
ニパッと笑顔を向けられたけど、緩みそうになる頬がバレたくなくて目を逸らした。

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