二十六話 ページ27
.
無一郎 Side
僕たちは、日が沈んですっかり暗くなった森の中にいる。
「A、ここからは気を引き締めていくよ」
「わかってる。鬼の色が昨日の鬼より濃いもん。今度こそ十二鬼月かもね」
「そうじゃないといいけど……」
「大丈夫だよ! 二人なら絶対倒せる!」
「そうだね」
Aの言葉に胸が痛む。もしも十二鬼月だったら、僕はAを守りきれるのか。いいや、守りきるんだ。ケガはさせない。僕は心に強く誓った。
「無一郎くん、こっち!」
不意にAに小声で呼ばれた。茂みに隠れて様子を伺うと、そこには三メートルほどの背に鍛え上げられた筋肉を持つ鬼がいた。
「こそこそしてないで出てこい。」
どうやら、気配に気づかれていたらしい。僕たちは警戒しながら茂みから姿を現す。
「お前ら、柱か?」
「そうだよ。私は、百年後のね」
もはやお決まりとなったその言葉にも、鬼は動じなかった。
「ふん。私は十二鬼月ではない。だが、十二鬼月“候補”だ」
「“候補”?」
「そうだ。それも、上弦のな」
「どういうこと?」
Aが小声で聞いてくるので、「さあ」と首をかしげた。
「まあわからないならいい。俺の強さをしっかり体感させたあと、殺してやる」
「変なの」
「あ?」
〈霞の呼吸・陸ノ型 月の霞消〉
俺は攻撃される前に手っ取り早く頸を斬りにいこうとした。しかし。
「速いけど、俺には敵わないなあ」
鬼は俺の速さを上回って避けた。こいつ、まさか本当に上限候補なのか?
〈宇宙の呼吸・伍ノ型 天の川〉
Aも鬼の背後から跳んで広範囲を斬ろうとするが、ついたのは小さな傷のみ。すぐに再生されてしまう。
「わかってきたか? 俺の強さが。でもなあ、これだけじゃないんだ」
《血鬼術
〈霞の呼吸・参ノ型 霞散の飛沫〉
〈宇宙の呼吸・肆ノ型 銀河〉
ものすごい速さで迫ってくる煙。僕たちは防御の型を使った。はずなのに。
「ゲホッ、ゲホッ……。む、いちろ、うくっゲホッ……」
血鬼術は、斬れていなかった。
.
34人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Rabbita | 作成日時:2020年5月9日 14時