衝撃の再会�� ページ23
ほんの少しボヤけた視界に映ったのは。
マスターに紙袋を渡す、黒髪で短髪の男。
その顔は。
紛れもなく、智だった。
紙袋を受け取ったマスターは、中からレモンを取り出し、満足気な笑みを浮かべている。
そのマスターを穏やかな表情で見ている男は、パーカー付きの黒いジャケットを着ている。
飽きるほど見てきたジャケット。
智の冬の定番の格好だ。
目の前の光景が信じられなくて、時が止まったかのように黙って見つめていると。
やがて黒のジャケットの男が、俺の方を見た。
バチっと目が合った瞬間。
同じく時が止まったかのように、固まった表情を浮かべた。
智「えっ…」
和「………」
智「か…カズ…？」
和「……さとし…」
名前を呼んだ瞬間、智は慌てたようにクルリと後ろを向き、入り口のドアを開けようとした。
やばい。
逃げられる！
そう思って椅子から立ち上がろうとした瞬間
「待て、智っ」
マスターの男が、すぐに智を呼び止めた。
「走るな」
マスターの言葉に、智がハッとしたように足を止め、店を飛び出していくことなく、やがて静かにドアを閉めた。
そして、下を向いたまま、気まずそうにゆっくりと振り返った。
「智。お前はとりあえず、スタッフルームにいろ」
すかさず智に指示をするマスター。
智「潤…俺……」
潤「いいから。そっちにいろ」
智は、マスターを「潤」と呼んだ。
その潤という男が、智に向かって顔でクイッとスタッフルームらしき扉を指した。
それを見た智が、一瞬だけ俺の顔をチラッと見た後、すぐに目を逸らしてスタッフルームのドアに手をかけた。
和「さとしっ！」
智を呼び止めようと、フラつく体を立ち上がらせた瞬間。
カウンター越しに、ガシッとマスターに腕を掴まれた。
潤「悪いが、そこは関係者以外立ち入り禁止だから」
智を追うことを阻まれ、その隙に智は、カチャリとスタッフルームの中へと消えていった。
店内に残っているのは、俺とマスターと、奥側の端に座る客1人のみ。
シンと静まり返った店内に、静かなジャズの音楽だけが流れる。
マスターは俺の腕から手を離すと、入り口のドアを開け、クルリと札を裏返した。
おそらく、『OPEN』から『CLOSE』へと変えたのだろう。
ドアを閉めたマスターが、再びカウンターを挟んで俺の前に立った。
潤「あんた、智の元カレだろ？」
和「えっ…」
潤「ゆっくり話そうぜ」
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年8月8日 16時
