それでも俺達は幸せだった�� ページ2
透き通る夜空の下。
金木犀の香りが漂う公園のそばを、恋人と一緒に歩いていた。
晩飯に外食をした帰りで、お腹が満たされた俺達は、上機嫌に鼻歌を歌いながら歩いていた。
和「お前、またつられてるよ」
智「なんかこの歌、節が分かりづらくて、つられちゃうんだよなぁ」
俺と恋人の智は、同じ曲を主旋律とハモリに分かれて歌っていた。
鼻歌で。
これはいつものこと。
一緒にいれば必ずと言っていいほど、一緒に鼻歌を歌う。
どちらかが先に歌い出したのに乗っかる時もあれば。
タイミングを合わせたかのように、同じ曲を同じタイミングで歌いだす時もある。
主に智が主旋律で、俺がハモリ。
今も、いつものように、智が歌い出した鼻歌に俺が途中から乗っかった。
ところが。
いつもは滅多に音を外したりつられたりすることのない智が、何故かこの曲のサビだけは、俺のハモリに引っ張られる。
今も途中から俺のハモリにつられて、二人でハモリ。
智「ダメだ、この曲やめよ」
和「じゃ『いつか』は？」
智「今、白の気分じゃない。なんかさ、もっと黄色の曲が歌いたい」
和「じゃ、自分で決めろ」
智「んーとね」
そう言って智は、何かを想像するように目を閉じた。
智の言う、黄色の曲というのは。
こいつの感性は、少し変わっている。
どうやら智には、曲一つ一つに色があるらしい。
音楽を聴くと、パッと色が見えるんだとさ。
その色は様々で、一曲一曲違うらしい。
全く同じ色の曲というのは、今のところ無いらしい。
例えば、同じ青でも、この曲は薄い青だとか、こっちは濃い青だとか、青と白が混じってるとか、青の中に黄色があるだとか。
音楽に色なんて見えない俺にとっては、意味不明の訳わかめ。
だけど智には、そんなカラフルな世界が見えているらしい。
こいつのこの奇妙な感性は、恐らく『共感覚』という、文字に色が見えたりするような特殊な感覚の一部で、その中でも音楽に色を感じる『色聴』という感覚に属するのだろう。
趣味で楽器を弾く俺にとっては、そんなカラフルな世界を感じられる智が、実は羨ましいと思っていたりする。
智「あ、待って。やっぱ、アレにしよ！あのホラ、最近俺が好きなやつ」
和「ああ、アレね」
アレで通じてしまう俺らの会話。
和「ちなみにアレって何色なわけ？」
智「めっちゃ濃い藍色」
そう言って智は、片方の口角だけを上げて笑った。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年8月8日 16時
