人生の転機�� ページ8
柵を乗り越えて、ちょうど足のサイズほどの幅のコンクリートに降りた。
さっきよりも風を直に感じる。
後ろ手で柵を掴んでいないと風に体を持っていかれそうだ。
真下の景色を眺め、命の保証が無い高さに足がすくむ。
だけど、そのリアルな高さが空に浮いているようで。
ギリギリの幅に立つ俺は、柵を掴んでいた手を離して両腕を広げた。
そして、目を閉じて恐怖と快感の両方を感じていた。
「ダメぇーーー！！！」
突然聞こえてきた大声に驚いて振り返った瞬間。
グラッと体が傾き。
吸い込まれるように、俺の体が地面へと引き寄せられていった。
ニ「あああーーーーッ！！！」
真っ逆さまに落ちていく。
俺は死ぬんだ。
親父…
親不孝な息子でゴメン。
お母さん、智。短い間でしたが、ありがとうございました。
潤くん、もっと一緒に遊びたかったよ。
櫻井先生、一度でいいから放課後二人きりで会いたかったです。
母さん…
今からそちらへ参ります。
もう全てを覚悟して目を閉じた。
自分の体が地面に叩きつけられる衝撃を、歯を食いしばって待っていたけど。
その瞬間はいつまで待っても訪れなかった。
いよいよおかしいと思って恐る恐る目を開けたら。
俺の体が逆さまの状態で宙に浮いていた。
いや、正確には誰かに足を掴まれて空中でストップしている。
逆さまのまま足の方へ目を向けると、背中に羽根の生えた白いワンピースを着た男が俺の足を掴んでいた。
何が驚いたかって、そいつも宙に浮いている。
「おーもーいーーッ！！」
ヒーヒー言いながらフワフワと浮いていって、俺の体ごと屋上へと上がっていった。
やがて屋上のコンクリートの上に降ろされ、目の前でそいつがまだハァハァと息を切らしていた。
ニ「あ、あのぉ…」
「ハァハァっ、もぉ！ダメだって、自 殺なんかしちゃっ！！」
ニ「はい！？」
「お父さんとお母さんからもらった命を簡単に捨てるなんて許さないよ！！」
はて。
ニ「あの…俺、別に自 殺しようとなんてしてないんだけど」
「だって今、飛び降りたじゃん！」
ニ「いや違うのよ、誰かが急に大声出すからびっくりして振り返ったらバランス崩して落ちたってだけの話なのよ」
「えっ、そうなの！？」
バンビのような目で俺を見る男。
フワフワの白い衣を着ていて。
蝶のような大きな羽根が生えていて。
さっきまで宙を浮いていた。
この人、何者？
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2020年2月16日 1時
