８ ページ30
・
「うう…疲れた…」
閉店後の店内。
クリスマスに向けての販促活動はもちろん、年末のあれこれにも追われてくたくたになった体を、カフェのテーブルにだらんと投げ出す。
あまりの忙しさに文句のひとつも言いたくなるけれど、それ以上に忙しい支配人や、ケーキデザインの考案にうんうん唸っているパティシエのふたりなんかを見ていると、私なんかが文句を言ってちゃいけないな…という気になる。
もうとっくの昔に塚ちゃんととっつーは帰って行って、支配人も「お疲れ」と螺旋階段を上がっていった。きっと郁人と良亮も良い頃合いで切り上げて帰ったのだろう。店内はしんと静まり返っている。
「あぁ〜、もうやだ〜…数字見たくない……」
ひとりだと思うと、ついつい泣き言が口からこぼれていく。
テーブルの上の分厚いファイルにどすっと顔を埋めたら、頭の上からかたん、という物音がした。
驚いてばっと顔を上げると、
「…お疲れ」
と、私服姿になった郁人が立っていた。
「…あ、お疲れ」
「これやる」
「ん？」
「疲れた時には糖分だろ」
にいっと笑いながら郁人が差し出した小さな箱を覗くと、中には私の大好きな、いちごのタルトが入っていた。
「わ、懐かしい…！」
つやつやのいちごがたくさん乗ったタルトに、まだ私がこの店に来たばかりの頃を思い出す。
あまりの忙しさと、連日のいろんな出来事にへとへとになっていた私に、
『お前はお前のままでいいんだよ』
なんて。このいちごタルトは、あの時郁人が差し出してくれた思い出の味。
「ふふ、もしかしてわざと？」
にやにやしながら郁人にそう尋ねると、「へ？なんのこと？」という気の抜けた返事が返って来た。
「…え、ほら前にもさ、くれたじゃん」
「へ？そうだっけ？」
「そうだよ！え、酷くない？忘れるとか…あの時結構いろんな話した気がするんだけど」
「いやごめんって…まじで思い出せない…」
あはは…と罰が悪そうに笑う郁人に、なんとも言えない寂しさと、私だけが覚えていたという恥ずかしさがじわりと込み上げてくる。
その瞬間、私の中でふっと何かが繋がったような気がした。
「あ、そっか…もしかして…」
郁人がぱちぱちと瞬きをしながら、私を見て不思議そうに首を傾げた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 48人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ろっか(プロフ) - お話めいっぱい書きすぎてあとがき入れられませんでした！！この計画性の無さ！！なのでコメ欄で失礼します。お読み頂きありがとうございました！あとがきはTwitterにでも載せます(笑)…ろっか (2019年12月27日 0時) (
レス) id: 2af5960142 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ろっか | 作成日時：2019年11月3日 16時
