ep.3 ガトーショコラをきみに ページ23
・
パシン、という平手打ちの音が、カフェに響き渡った。
そこにいたお客様はもちろん、塚ちゃん、とっつー、厨房にいた良亮まで、何事かと顔を覗かせている。
「もういい」
ガタン、と立ち上がった女性は、注文したケーキを待たずして、勢いよくドアを開けて出ていった。
ゆっくりと閉まった扉の、ぱたん、という音と、チリリン、というベルの音が虚しく店内に響く。
「なになに、修羅場？」
まさに今、そのテーブルにケーキを運ぼうとしていた塚ちゃんが小さな声で私に耳打ちする。
「ちょっと、やめなよ」
「だって」
塚ちゃんが言い訳しようとしたその時、平手打ちされた男性が、くるりとこっちを向いた。
「あ、ほら、聞こえたんだって」
「え〜、聞こえないでしょこんな遠くで」
塚ちゃんとこしょこしょ言い合いをしていると、私たちの横をすーっと抜けて、とっつーが男性のテーブルまで歩いて行った。
「…お客様、ご注文のケーキは如何いたしましょうか」
「あぁ…すみません、下げてもらえますか。ちゃんとお代は払います」
「いえ、まだお運びしておりませんし、キャンセルという形で承ります」
「…すみません」
とっつーが柔らかく微笑むと、男性は申し訳なさそうに眉を下げて笑った。
そのままいそいそと、帰り支度をして立ち上がる。
…きっと周りの目も気になって、そのままゆっくりなんてできないのだろう。
「……あの」
男性が、扉の前まで歩いたところで、見送りをしようとしたとっつーを振り返る。
「はい、何でしょうか？」
「すみませんでした」
そう言って、ぺこりと頭を下げる。
「いえ、とんでもありません。…もう少しゆっくりして頂きたかったというのは本音ですが」
とっつーがそう言って、茶目っ気たっぷりにウインクすると、男性は、はは、と笑って「ありがとうございます。また来ます」と言い残して去っていった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 48人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ろっか(プロフ) - お話めいっぱい書きすぎてあとがき入れられませんでした！！この計画性の無さ！！なのでコメ欄で失礼します。お読み頂きありがとうございました！あとがきはTwitterにでも載せます(笑)…ろっか (2019年12月27日 0時) (
レス) id: 2af5960142 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ろっか | 作成日時：2019年11月3日 16時
