僕の隣には亡霊がいる (ページ16)

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十五話ページ16

「……いつ見ても似合うわね、袴姿」

「あ、ありがとうございます」

少し照れながらお礼を言う。

「じゃあ早速やってもらうのだけれど、一射目は全身全霊で引いてほしいわ。今までの練習を全て発揮するつもりで」

「は、はい」

緊張する。

弓道は精神状態が射に影響してしまうから、今の状態では良い射ができないだろう。

落ち着こうと、ゆっくりと息を吐く。

「想空、気楽にやってこい」

碧人が背中を押すように、後ろから声をかけてくれる。

「……よし」

二十八メートル先に据えられた的を見つめる。

大丈夫。今までの練習を思い出して、先輩たちの姿を思い出して。

弓構えの位置から、両拳を同じ高さに持ち上げる。

ゆっくりと両拳を左右に開きながら、額くらいの高さまで下ろしていく。

そして、ぎりぎりまで矢を引きしぼる。

神経を集中させ……

「……はっ、ハックションッ！！！」

「うわぁ！！」

驚いたのと同時に放った矢は、的に的中することなく失速していき、芝生へと飛んで行った。

「あちゃ～。ドンマイ、想空」

「お前の……」

お前のくしゃみのせいだ。と、口から零れかけた言葉を飲み込んだ。

声に出したら先輩を不安にさせるのもそうだが、単に僕の実力不足だろう。

「……すごいわ、想空くん！たくさん練習したのが分かるわ！」

「え、本当ですか？」

「えぇ、会まではかなり良かったもの」

「あ、ありがとうございます……！」

嬉しい。

こうやって褒めてくれるから、次も頑張ろうって思える。

弓道部に入ってよかった。

そう思っていると突然、頭の上から不思議な言葉がふってきた。

「……想空、弓扱うの下手になったなぁ」

……碧人？

碧人は、何を言っているのだろう。

弓道は高校に入ってから始めたものだ。

下手になったなと言われても、実際に矢をつがえたのは今が初めて。

……もしかしたら、碧人が生きていた頃の誰かと照らし合わせ、つい口にしただけかもしれない。

深く考えるのは止そう。

だって、

この訳も分からない胸のざわめきを、感じたくないから。

僕の知らない僕がいるみたいで……気持ち悪い。