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次元を超えて(3) ページ4

『わらわはなんと不幸な女子なのじゃ…』

「A様、いい加減元気出してください……」


千夜が帰ってからというもの、ずっと姫はこの調子。

顔をあげようともしない。


もう月は昇っていて、星がきらめいている。


「千琳様は良い方ですよ。千夜様のように優しいですし…」

『嫌じゃ。あやつの女癖の悪さはわらわの耳にも届いておる』


それは否定できない。

千夜と同じくらいの美貌を持つ彼は、女性陣からとても人気で遊び者としても名が知れている。


女性陣はそれでも、彼のもとによっていくのだから余計にたちが悪い。


また溜息をついた霧ノはふと外を見た。


月の光に照らされ、青白い光を放ちながら散る夜桜。

後ろの泉も光っており、とても幻想的で綺麗だ。


「姫様…今年も美しい夜桜ですよ」

『そんなもの、見とうない!』


そう言いつつ、顔をあげすっかり外に魅入られている。


(姫様、桜が本当に好きなんだ……)


『わらわの恋心も…』

「へ?」

『わらわの恋心の、このように儚く散っていくのじゃな…』

「姫様……」


吸い寄せられるように、桜に向かって歩くA。


わかっている。こればかりは取り消すことができないことなど。

わかっている。思い通りにならないことも。


それでも…


木に触れたとたん、思いが込み上げてきた。


『わらわは…それでも、嫌じゃッ!!自由のない生活など…大嫌いじゃ!!』


どこか自由な場所へ…逃げたい。


そう思った時、突然辺りが光りだした。

月のせいじゃない。A自身が光り輝いているのだ。


『な、なんじゃ…!?』

「姫様!?」


霧ノは慌てて駆け出した。


『霧ッ…』


伸ばされた手をつかもうとしたが、結局空をつかんだだけ。


Aの姿は消えてしまった。跡形もなく。


「姫様……!」

「霧ノ!いったい何事じゃ!!」

「采華様!それが…A様が突然消えてしまわれて!!」


華家の現当主・采華は眉を寄せ静かに「そうか…」と言った。


「A様は何処に?」

「わからぬ…そうか、あの子が……次の呪いを受け継ぐ者だったのじゃな…」

「え…?」

「あの子だったのじゃ…」


采華は桜の木に手を添え、寂しげに呟いた。


「無事に帰ってこい、A…」


漆黒の髪が風に揺られてなびく。

絶世の美女と呼ばれ、何事にも動じず、強く気高い彼女の顔が陰るのを、霧ノは初めて見た。

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設定タグ:ジャーファル , マギ , トリップ   
作品ジャンル:恋愛
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岸田(プロフ) - 青李、李青秀なので呼び方は李青秀か青秀なのではないでしょうか…? (2019年2月2日 10時) (レス) id: a6cde36435 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - スノーさん» ありがとうございます、嬉しいです♪更新スピードバラバラですが、最後までお付き合いください(o*。_。)oペコッ (2017年11月14日 21時) (レス) id: 23374c4c5d (このIDを非表示/違反報告)
スノー(プロフ) - 昨日見つけて一気見しちゃいました!続きを楽しみに待っています! (2017年11月14日 21時) (レス) id: 61560a1736 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - MIZOREさん» ありがとうございます(*- -)(*_ _) (2017年10月14日 15時) (レス) id: 23374c4c5d (このIDを非表示/違反報告)
MIZORE - 暁さん» 私も一安心しました... 再ログインできて良かったですね! これからも更新楽しみにしてます! (2017年10月13日 22時) (レス) id: a68bb744ad (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作者ホームページ:   
作成日時:2017年9月30日 21時

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