花の裏に隠されて［フラン］ ページ13
ヴァリアーだからこそ持てる、城の裏にある広大な庭。
紫のサフランや真っ赤と真っ白が入り乱れたバラを眺めながら、一際目立つ一角に向かう。
大分古びてしまったじょうろを片手に、視界に現れるであろう橙と紅のコントラストを思い浮かべる。
"彼"に渡すために、大切に大切に育て上げた、私だけの花畑で。
「……っあ……!!」
見えた後ろ姿に、息を呑んだ。
風がそよぐたび、頭のカエルからはみ出た緑の髪がさらさらなびく。
下に向けられていると思われる視線は、私の育てた花に注がれているようだった。
「……っ、フラン様っ！」
予期していなかった対面に、大きく跳ねた心臓を誤魔化すかのように叫ぶ。
「……誰です…、涼川じゃないですかー」
私の裏返った声に振り向いたフラン様は、いつものように無表情のまま間延びした返事をする。
そして、私の持つじょうろをちらりと見た。
「初めて見る珍しい花ですからー。思わず見とれちゃったみたいですー。
…この庭、涼川が世話しているんですかー？」
私に向いたエメラルドグリーンの瞳に、熱を集め始める顔。
赤いだろう頬を見られないよう、しゃがみこんで土をいじるふりをした。
「いや、水やりはリナリアだけで……。
…え、エントランス用に数本切ろうかと…、そろそろ生け花にしようと思いまして…」
フラン様を前にしているせいか、口は面白い程よく動く。しかし、舌はよく回らない。
途切れ途切れの答えに、のんびりと相槌を打つフラン様の隣で、ポケットから出したハサミをせわしなく動かす。
そして、風の涼しげな音を突き破り、彼にリナリアを五本差し出した。
いきなり突きつけられた橙と紅に、彼は瞬きをしてそれを受け取る。
「…ミーに、くれるんですかー……？」
少しの戸惑いを含んだ声に、理由も無く花を差し出した事を一瞬後悔した。
しかし、言い訳は口をついて出ていた。
「…えっと、リナリアの花言葉は"幻想"で…、
幻術師のフラン様にはぴったりだな、と」
しどろもどろになりながら、真っ赤な顔を俯かせた私に、彼はどこか嬉しそうに言う。
「…ありがとうございますー、A…」
ふわりと放たれた自分の名に、私の羞恥は頂点に達した。
じょうろもハサミも放り出して、感情の赴くままに走り出した。
フラン様、ご存じですか？
リナリアの花言葉は、"幻想"の他にもう１つ。
＊花の裏に隠されて
"私の恋に、気づいてほしい"
＿＿＿＿＿
桜雲様リクでした。
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ものもの - ずっと前に偶然読んでそれが夢霧さんだったとは…。この短編集探していました。「青春短し恋せよ乙女」が当たり前かと思って使っていたのですが、「命短し恋せよ乙女」のもじりだったんですね！長編のほうも読んでいます。尊敬しています！！！ (2014年3月31日 8時) (
レス) id: 2ce098c691 (このIDを非表示/違反報告)
夢霧 - 命さん» 読んでいただき嬉しい限りです。…実は、リクエストをいただいてもご希望通りのような作品を完成させる自信がなく、リクエストは基本お断りしております。詳しい事は"リクエストお断りのお知らせ"よりご覧下さい。本当に申し訳ありません。 (2013年12月12日 23時) (レス) id: 74af34c10f (このIDを非表示/違反報告)
命 - 風とコロネロとマーモンとフランと雲雀恭弥で別々でヤンデレ。５つもリクエストしてしまうことになりますがよろしくお願いします。 (2013年12月9日 3時) (レス) id: f5d1fbf7c1 (このIDを非表示/違反報告)
夢霧(プロフ) - 燐花さん» お褒めに預かり光栄です(*^^*)新しく暗めの短編を更新しました。よかったらご覧ください！ (2013年11月30日 19時) (レス) id: 74af34c10f (このIDを非表示/違反報告)
燐花(プロフ) - 夢霧さん» やっぱりそうでしたか！私の周りの方、あまりご存知なくて・・・なんか感激です！ 夢霧さんの作品とっても面白いです！！ 応援してます！！ (2013年11月26日 6時) (レス) id: f45056ee11 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夢霧 | 作成日時：2013年8月11日 16時
