■丈一郎 ページ4
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本当は見にくるつもりなんてなかった。でも、康二にどうしてもって真剣な顔をして頼まれて、その姿に悟った。ああ、デビューが決まったんだって。
それは本当に嬉しくて、幸せで、たまらないことだった。でも多分、康二はそんなデビューの瞬間を見せたかった訳じゃないんだと思う。
そうじゃなかったら、こんなにうまく巡り会う訳がない。
「A」
よく知ってる声だった。振り返らないほうがいい、分かってる。
そう思ってたけど、その声で名前を呼ばれて締め付けられる胸に、溢れそうになる涙に悔しくなった。
「おい、なんか言えや」
「‥‥じょ、いちろ」
あの頃、自分のことで精一杯だった。1人になりたくなくて、この世界の遣る瀬無さにやさぐれて、不安になって、きっとお互いそうだった。
お互いがお互いに優しくなれなかった。あの夏みたいに。
丈一郎の不安や孤独にもっと寄り添ってあげればよかった。意味も分からず推される恐怖はよく知ってるんだから。
あの時丈一郎を傷つけるだけ傷つけて、確かな温もりに逃げた。そんな私の名前を呼ばないで。
「A」
「……」
「会いたかった」
ゆっくりと伸ばされた手を拒める訳がなかった。
「じょおいちろっ、」
「ん、」
「じょっ、」
「なんでお前が泣くねん」
もう何に泣いてるのかさえ分からない。でも、涙が止まらなかった。
久しぶりに会ったこと。触れたこと。抱きしめられたこと。盟友がデビューを決めたこと。その後の1曲のいろんなものを飲み込んだ笑顔。全部が重なって、涙にしかならなかった。
「まだまだ、これからやから」
「…っん、」
なんて強がりながら私の肩で静かに泣く丈一郎を、ギュッと抱きしめた。
悔しさと不安で一杯だけど、それを仲間にもファンにも絶対見せない人。強くて、弱くて、不器用。誰よりも側で見てきた。
背中に回した腕に力を込めながら、私がこの人の泣ける場所でありたいと願ってしまった。
「A、」
「ん？」
「俺ら元通りになれる？」
「……え、」
「もう強がるのやめよ。お前やって俺がおらなあかんやん」
「なに、いうてんねんっ」
「俺だけなんて我儘言わんから」
「じょ、」
「やから、ずっと一緒におって」
この時、忘れてた。絶対に忘れちゃいけない人のことを。
あんなにも優しい彼のことを。
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パピコ - 大人と大西くんの絡みが見たいです (2020年3月5日 9時) (
レス) id: c96c564d35 (このIDを非表示/違反報告)
ちゅんすけ - 素敵な文章で一気読みしてしまいました！大人ヒロインちゃんと康二に幸せな未来が訪れますように！！！ (2020年1月6日 6時) (レス) id: 57a24d82e0 (このIDを非表示/違反報告)
ラッコ - えーーー！！！宮近さんとどうなっちゃうのか気になりすぎます！！ありがとうございます！好きですこれからも更新楽しみにしております (2019年12月31日 4時) (レス) id: 5b926bea01 (このIDを非表示/違反報告)
yrniiiii2525(プロフ) - いつもたのしく拝見させていただいています！大人ヒロインちゃんと大吾の絡みがめちゃくちゃ好きだったのでそろそろお近づきになってくれることを願っています！！！ (2019年12月14日 23時) (レス) id: d6c179e51a (このIDを非表示/違反報告)
誉(プロフ) - あべちゃん！！他の人とは違う嫌われ方ですごく良いです！好きです！ (2019年12月10日 0時) (レス) id: 1ecb5a4891 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：aoi
| 作成日時：2019年8月19日 12時
