【忍たま】利吉さんはいじわるだ。【山田利吉】 (ページ43)

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利吉side

来るんじゃなかった。

先程から、くのたまたちに追いかけ回されている。
バレンタインというイベントがある事を
すっかり忘れていた。

毎年これなのだから大変なのだ。

利吉「あ、ありがとう」

結局、無下に断ることもできずに
受け取った大量のチョコレート。

山田「それにしてもすごい量だな、利吉」

あっはっはと父上は笑っているけれど

利吉「本当に毎年、何なんですか。これは」

山田「いや、今年は食堂のおばちゃんとAくんも、
　皆に配ってくれたんだが」

さすが美味いんだ、と。
そ、そうなのか。
Aが……あ、Aと食堂のおばちゃんが…

山田「なんだ利吉、それだけ貰ってりゃ充分だろう」

利吉「こういうのはね、数じゃぁないんですよ。
　父上」

山田「そういうもんか」

利吉「そういうもんです」

何故だか少し父上に嫉妬して…って情けない。
私は忙しいのだ。そんなイベント事に
うつつを抜かしている場合ではない。

と、思っていた。
つい数秒前までは。

『うわぁ、たくさん貰ったんですね！
　さすが利吉さん』

門の近くまで来ると、Aに会った。

『これ、おばちゃんと作ったんです。
　忍たまの皆と、先生方と…利吉さんにも』

利吉「あ、ありがとう」

手渡された小さな包みは甘い香りがする。

『すみません、もうたくさん貰ったのに。
　また甘いものですけど』

Aは申し訳なさそうな顔をした。
そんな顔しないでいいのに。

『でね、これは私から利吉さんになんですけど』

Aが差し出したのは、紙の袋。
受け取ると。あ、この香りは。

『おかきです！作ったんですよ。日持ちするから、
　チョコを食べる合間のお口直しにどうぞ』

味は3種類あって……等と説明するAは
少し頬を染めていて。

初めて私は、このバレンタインなどというものを
有り難く思うのだ。

利吉「Aは本当……他とは一味違う」

『えっ、色々考えて作ったんですよー。
　きな粉にお醤油に塩に』

利吉「はは。うん、わかっているよ。
　ありがとう」

Aにしか思いつかない方法で

他とは違う、だから惹かれる。

利吉「今食べてもいい？」

『お口直し用なのに』

利吉「うん。口直しも何も、
私はこれだけでいいんだけどな」

真っ赤に染まる、Aの顔。

それだけで、いい。