07 ページ7
「じゃあ操縦士さん。私がこの先どう舵を切ればいいかわかるの？」
無遠慮な男に対し、ちょっぴり意地悪な問いかけを投げかける。
そんなこと自分で考えろと言われてしまうだろうと思いながら、眩しさゆえに見上げられなくなったドローンから視線を落とし、足元に落ちる影を見た。
「テティス、その問いに解はないだろう」
どんな答えだろうと聞く耳などないはずだと、隣の彼は言った。
まさしくその通りで、だって私は記憶を取り戻すことを念頭に動くと決めていたから。
全てお見通しだとばかりに口角を上げる七海龍水。
「なぜなら貴様は俺のイトコだからな。記憶を取り戻し、なくなったものを再び手に入れ、今度こそ手放さないようにするはずだ」
「…」
「当たるぜ、船乗りのカンは？」
ゆっくりと地面へ着陸を果たしたドローンを見届けて、ようやく龍水と目線が交わる。
座高の高さの違いで眩しいけれど、それでも煌めく瞳がまっすぐ私を見ていることは明らかだった。
「誰よりも不変不朽を愛する女神。貴様が手から溢れたものを悼み泣くだけなら、俺はここまで貴様に惚れ込まん」
「…」
「それは千空とて同じだ。悔しいがな。どんな状況だろうと、テティスがひたむきに努力を重ね、暗黒の海に見える小さな灯台の光を見失わないことを知っている」
あの男の厄介なところは、その灯台が自分だと信じて疑わないことだがな、と。
悔しさなどない爽やかな笑みを浮かべて笑うものだから、何だか聞いているこちらが恥ずかしかった。
やるせない気持ちのまま視線を逃すと、立ち上がった龍水に手を差し伸べられて、徐にその手を取る。
引っ張り立たされた後、彼はそのまま掴んだ左手を弄ぶように指を滑らせて、空白になっている薬指の付け根をなぞった。
「そうは言っても、あまり続くようなら遠慮はしないがな」
ギラリと光った眼光に射抜かれて、一瞬身を固くしたけれど、それさえからかいなんだと思うと面白くなかった。
いつまでも握り続ける手を払って、彼より先にカヌーへ乗り込む。
「最初から遠慮なんてしてないでしょう」
「はっはー！俺は欲しいものは手に入れるからな！」
「あなたと血が繋がってるって聞いて、ちょっと不安になってきた」
自信と欲望に声と形を与えたらきっとこの男になるだろう。
けれど口ではそう言いつつも、少し胸が軽くなったのも事実だった。
今は真っ直ぐで強欲なところが、羨ましくも力強く思えた。
嘘のないその言葉の通りであったらいいと思った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 302人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「Dr.STONE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
sora(プロフ) - カルーアさん» とても長い作品になってしまいましたが、終わりを惜しんでいただけて感無量です。なかなか世の中が落ち着きませんが、カルーアさんもお気をつけてお過ごしくださいませ。これからもどうぞよろしくお願いいたします。 (2020年12月28日 23時) (
レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - カルーアさん» ご感想ありがとうございます。どんなに色んなものがなくなっても、人間の根底はそう変わらないと私は思っています。彼が好きだからというよりも、彼女のどこまでも人間らしい気持ちが、何より裏切りたくないという誠実につながるのではと考えました。なんだかんだで→ (2020年12月28日 23時) (レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
カルーア(プロフ) - この世の中コロナも変異種が出たりと不安が多いですし、soraさんも体調には気をつけてどうかお過ごしください。続編も楽しみにしています。 (2020年12月28日 9時) (レス) id: 0fc594eb2a (このIDを非表示/違反報告)
カルーア(プロフ) - 人生青史�ゴ扱襪�めでとうございます。夢主ちゃんは記憶が無い中で本の中の自分とその自分が愛している千空を信じ続ける姿に心打たれます。もうすぐ終わりということでとても寂しく思いますが、最後まで心より応援させていただきます。 (2020年12月28日 8時) (レス) id: 0fc594eb2a (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - 坂田銀糖さん» 書き込みありがとうございます。本当は毎日更新をまたしたいのですが、なにぶん気分の上下が激しく…できる時にまとめて更新になってしまい申し訳ありません。後少しで彼女と彼の関係も変わるかと思います。もう少しこのまま読み進めてください。よろしくお願いします。 (2020年12月27日 21時) (レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：sora
| 作成日時：2020年10月21日 9時
