15 ページ15
「何も覚えてないの！あなたが誰なのか、どうしてこんな世界にいるのか、忘れた原因も、忘れる前の自分も…！」
取り乱して声を張る姿は、彼女の言葉通り、あまりに普段のAちゃんから遠のいて見えた。
そりゃあ全部忘れちゃったのなら、不安に思うことも多いはずだよね。
千空ちゃんが先に向かったから、その後メンタルケアでもって思ってたけど、もっと早めに向かえばよかったかも。
「本で読んだよ、あなたのことも、記憶をなくす前の私が過ごした日々のことも。でも申し訳なさしか出てこないんだ！何もピンとこない！だから、あなたを探したの！」
「…」
「本の中にあなたのことがたくさん書いてあった。あなたに会えば何が思い出すかもしれないって思った。でも…っ」
ボロボロと涙が彼女の頬を伝う。
相対するように、千空ちゃんがゆっくり立ち上がって、そんなAちゃんをじっと見つめた。
俺たちも何が出来るわけじゃなく、洞窟の中に響く悲痛な声を聞く。
「どういうことなの…？」
「…私たちもさっき合流したばかりでな。よく分からないのだが、ついにAは全て忘れてしまったらしい」
「えええ？！」
事情を知らない銀狼ちゃんたちに、コハクちゃんがこっそり説明している声が聞こえる。
「私、わたしは、もう、誰でもないんだよ…っ」
ああ、恐れていた事態だ。
脳を石化で治せても、心は治せない。
セラピーには時間がかかるし、根気も必要だ。
千空ちゃんなら投げ出したりはしないだろうけど、今のAちゃんは、もう俺たちが敵か味方かも分からなくなっている。
ゼロからのスタートどころか、マイナスだよ、これ。
全員が、彼女の目の前に立つ千空ちゃんへ視線を向ける。
この状況を打破できるのは、千空ちゃんだけ。
その言葉に今後の全てがかかってる。
生唾を飲み込む音が聞こえた気がした。
「あー…」
少しの沈黙の後、いつになく歯切れの悪い千空ちゃんの声が溢れる。
鼻をすすりながら、次の言葉を待つAちゃんが、居心地悪そうに視線を落とす。
何度か乱暴に頭をガシガシ掻いた世紀の科学者は、やがて観念したように大きなため息をついて、顔を上げた。
「この際、はっきりさせるが…」
重々しい前置きと一緒に、千空ちゃんがAちゃんに一歩歩み寄る。
「お前がどんだけ忘れても、自分には関係ねえっつっても、100億％俺は変わらねえぜ」
手の届く距離にたっても、無理に抱き寄せないのが千空ちゃんらしい。
「お前は俺の月だからな」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 216人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
sora(プロフ) - 北さん» そして、この小説をきっかけにアニメだけではなく、原作まで手を伸ばしていただけたこと本当に嬉しいです。原作の彼らが大好き過ぎてできた作品なので、是非本編を片手に読み進めていただけると幸いです。宝島編はまだ続きますが、最後までよろしくお願いします。 (2020年8月2日 16時) (
レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - 北さん» いつもご感想ありがとうございます。小さな手がかりからでも誕生日を当てられるくらい、彼も彼女のとの些細な日常を大切にしていると思います。いつも静かに寄り添ってくれていたからこそ、真正面からぶつかるのは、彼自身ドキドキしたかと思いますが。→ (2020年8月2日 16時) (レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
北(プロフ) - 実は私、アニメ民でほとんど内容を知らなかったんです。けれど、この小説を本当に楽しく読みたいと思い、漫画も読み始めてしまいました。（ついでに星の息も読み返してしまい追いつくのが大変でしたが）。これからも無理のない程度に頑張って下さい。楽しみにしています (2020年8月2日 0時) (レス) id: c788d63342 (このIDを非表示/違反報告)
北(プロフ) - 千空が誕生日を当てたとき、なんてヤバイやつなんだ…と心から尊敬しました（一個前の作品と続けて読んだためこの章じゃないかもしれませんが）。本当にsora様の書くお話が好きでたまりません (2020年8月2日 0時) (レス) id: c788d63342 (このIDを非表示/違反報告)
北(プロフ) - 完結お疲れ様です。お疲れ様でした。本当…もう…素敵でした…。私の語彙力では言い表せませんが、とにかく読んでいて幸せでした。愛史ちゃんの記憶が消えてしまってとても悲しいですが、記憶がなくなってもなお、千空を信用していてなんだかきゅんきゅんします。 (2020年8月2日 0時) (レス) id: c788d63342 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：sora
| 作成日時：2020年7月19日 22時
