13 ページ13
無言で隣に腰を下ろした石神千空。
緊張が走って、無意識に膝を抱える手に力が籠る。
寄ってきたくせに何も言わないから、私が話し始めるのを待ってるのかと余計焦る。
聞きたいことはたくさんあった。
本から読み取れることはあまりに偏った情報だったから、もっと詳しく、色んなことを聞いてみたかった。
でもいざ、その時間を与えられると言葉に詰まってしまう。
ドキドキと心臓が早鐘のように鳴り響いて、隣の彼に聴こえてしまいそう。
…待って、何で私こんなに心拍数が上がってるの？
どうにも彼に関して言うと、事前知識が多すぎたようだ。
人類青史と私が称した本は、前提として石神千空を好きな『私』の視点で物事が語られていて、彼のいい面しか読み取れなかった。
だから自然とハードルは上がっていたし、もっとこう…
「どこまで覚えてる」
私たちの間に降り立っていた沈黙を破ったのは、彼の優しげな声だった。
反射的に眼差しを向ければ、彼、石神千空はガーネット色の瞳を海に向けたまま、私の答えを待っている。
「…よく、分からない」
「…」
「思い出そうとすると、靄がかって、うまく思い出せないの。けれど、懐かしい気がするときもあるし、全くはじめてな気持ちになる時もある」
船を一目見て、機帆船だと分かった。
望遠鏡の使い方も、ツリーハウスの基礎の甘さも、知識として覚えていることは多い。
「普通、知識って経験からなるものでしょう？勉強したのなら、その記憶があっていいはずなのに…何もないの」
どこで得た知識なのかも知れず、どこから来たかも分からず。
人間が石化するなんてファンタジーな世界に放り込まれて、よっぽど出来の悪い夢なんじゃないかと思った。
素直にそう伝えれば、彼の視線がゆっくり私へ向き、またゆっくり海へ戻っていく。
呟くように「そうか」と答えた彼は、そこらに転がっている小石を一つ掴んで、コイントスよろしく空に弾いた。
数回それが宙を舞い、彼の手元に戻るのを繰り返す。
そうしている間の沈黙は最初ほど苦じゃなくて、この余白さえ彼が持つ魅力…違う、引力の一つなのだと思った。
「…ねえ」
次の言葉を一向に発しないから、今度は私から声をかける。
耳には、少し遠いところにあるラボカー付近で他の人たちが談笑する声と、洞窟特有の風と波の反響音だけが聞こえ、目にはライトの光で反射する海の波模様が、彼の瞳を揺らがせるのだけが映る。
息を飲むほどその光景が美しくて、何故か涙腺が緩んでしまう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 216人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
sora(プロフ) - 北さん» そして、この小説をきっかけにアニメだけではなく、原作まで手を伸ばしていただけたこと本当に嬉しいです。原作の彼らが大好き過ぎてできた作品なので、是非本編を片手に読み進めていただけると幸いです。宝島編はまだ続きますが、最後までよろしくお願いします。 (2020年8月2日 16時) (
レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - 北さん» いつもご感想ありがとうございます。小さな手がかりからでも誕生日を当てられるくらい、彼も彼女のとの些細な日常を大切にしていると思います。いつも静かに寄り添ってくれていたからこそ、真正面からぶつかるのは、彼自身ドキドキしたかと思いますが。→ (2020年8月2日 16時) (レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
北(プロフ) - 実は私、アニメ民でほとんど内容を知らなかったんです。けれど、この小説を本当に楽しく読みたいと思い、漫画も読み始めてしまいました。（ついでに星の息も読み返してしまい追いつくのが大変でしたが）。これからも無理のない程度に頑張って下さい。楽しみにしています (2020年8月2日 0時) (レス) id: c788d63342 (このIDを非表示/違反報告)
北(プロフ) - 千空が誕生日を当てたとき、なんてヤバイやつなんだ…と心から尊敬しました（一個前の作品と続けて読んだためこの章じゃないかもしれませんが）。本当にsora様の書くお話が好きでたまりません (2020年8月2日 0時) (レス) id: c788d63342 (このIDを非表示/違反報告)
北(プロフ) - 完結お疲れ様です。お疲れ様でした。本当…もう…素敵でした…。私の語彙力では言い表せませんが、とにかく読んでいて幸せでした。愛史ちゃんの記憶が消えてしまってとても悲しいですが、記憶がなくなってもなお、千空を信用していてなんだかきゅんきゅんします。 (2020年8月2日 0時) (レス) id: c788d63342 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：sora
| 作成日時：2020年7月19日 22時
