救世の英雄�� ページ9
千空のお父さんたち、6人の宇宙飛行士たちが不時着した無人島…通称宝島でのメデューサ争奪戦は、科学王国へ軍配が上がる形で終結した。
私の記憶の消失や島全体が石化されるなど、色々あったけれど、この島へ来た当初の目的であるプラチナを手にし、更には石化武器まで手に入れ、私たちの最初の航海は区切りをつけた。
甲板では勝利に酔うみんなのどんちゃん騒ぎが響いている。
お酒はないから、千空特性のコーラを樽で開け、思い思いに過ごしているようだった。
溢れるたくさんの声の中、私は船の舳先まで手すりに沿って歩く。
煌々と輝く科学の光で、夜とはいえ、甲板の床板はその木目までよく見えた。
目的の場所にたどり着くと、綺麗に張られた床板に僅かに残る焦げ跡が私を出迎える。
しゃがみこんでそっと指を滑らせるけれど、指先には煤の欠片すらつかない。
きっと私が石化されている間に、みんなが一生懸命掃除をしたんだろう。
ぼんやりとそんなことを考えながら、何かの形に見えなくもないその焼け跡を見つめていたら、不意に大きな影が私を覆った。
見上げれば、そこにはグラスを片手にした龍水が立っている。
マストの上で輝く灯りを後光のように背負っているせいで、眩さに私は顔を顰めた。
「こんなところでしゃがみこんで何をしている？」
床についたままの私の手を大きな手のひらで器用に包んで、立つように促してくる龍水。
素直にそれに応じれば、持っていたグラスを手渡された。
「ありがとう」
受け取って1口含めば、懐かしい炭酸の弾ける感覚が口内を刺激する。
冷蔵庫なんてないから常温だし、あくまで樽なので密閉力も低く微炭酸だけれど。
逆にそれが、あの日の化学実験室を想起させた。
「また、千空に貰ったものを失くしてしまったの」
燃えカスもない真っ平らな甲板へ視線を落として答えれば、龍水は珍しく口角を下げたまま「そうか」とだけ告げた。
彼は私が物を大切にするあまり、失わないよう、物に固執したくない性格だと分かっているので、それ以上は何も言わないでいてくれた。
たとえ慰められても、もうあの皮の表紙のザラザラとした手触りや、不揃いな張本で捲りにくい紙の質感は味わえない。
それを知っているから、彼はあえて無言を選んだのだ。
そんな彼のありがたい気遣いに甘んじて、私も黙ったまま、2人で漆黒の海を見つめた。
耳に届く波の音と、頭上に輝く星々の光。
なかでも一際明るく光る三日月を見上げて、私は大きく深呼吸した。
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綾瀬 - 続きの月の船も、もちろん拝読させていただきますが一旦気持ちが抑えられず…コメントさせていただきました…。失礼します。 (4月25日 17時) (
レス) id: 27ab9d3713 (このIDを非表示/違反報告)
綾瀬 - コメント失礼します。毎日読み進め、作品に浸る時間がとても楽しかったです。読み終えて、こんなにも充実した気持ちになる作品に巡り会えとても嬉しい気持ちです。Dr.STONEは勿論好きですが何よりsoraさんの文章力や表現が素敵で思わずコメントしました。大好きです。 (4月25日 17時) (レス) @page41 id: 27ab9d3713 (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - 鈴音さん» 書き込みありがとうございます。星の息を読んでアニメだけではなく原作の漫画まで読んでいただけたいただけたこと本当に嬉しく思います。私もDr.STONEが大好きなので、その気持ちが伝わる文章が書けていたと分かり、作者冥利につきます。完読ありがとうございました。 (2022年2月23日 10時) (レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
鈴音 - コメント失礼いたします。作者様の素晴らしい文章力とキャラ設定がとてもとても好きです！もともとアニメしか見ていなくて、単行本を買うべきか悩んでいましたが、この作品をきっかけに購入しました！素晴らしい作品を読ませていただき本当にありがとうございます！ (2022年2月19日 21時) (レス) @page41 id: e5b68abb09 (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - shiochanさん» ご感想ありがとうございます。単行本で彼らの復活は読んでいて、私もどのように関わろうかと思案中です。なかなか相性が合うのか合わないのか微妙なところなので、違和感のないように描ければと考えています。文字になるまでもう少しお待ちください。 (2022年2月6日 21時) (レス) id: a1dae06abc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：sora
| 作成日時：2020年2月16日 19時
