伝統の後継�� ページ36
「ルリ、お願いがあるの」
山積みの博物誌と千空からのTO DOリストを手に、私はルリの元を訪れた。
彼女は笑顔で私を招き入れて「どうしたのですか」と首を傾げる。
「私たちが航海へ出ている間、あなたにこれらを預けたいの」
書き出した博物誌はもっとあるけれど、必要そうなものだけピックアップして持ってきた。
その数々の本を指差せば、ルリは静かに「Aもここを離れるのですね」と呟く。
私たちが海へ出た後、日本に残るのはほとんどが石神村の住民になる。
けれど、世界を一周して素材集めをする間、ただ待っているわけにもいかない。
日本に残る彼らにはやってもらう仕事がたくさんある。
博物誌には難しい言葉も多々あるけれど、この数日で全てにルビを振ってある。
ひらがな程度なら読めるようになった彼女なら、なんとかなるはず。
それに、皆をまとめて実行に移してもらうには、やっぱり巫女であるルリが適任だと思った。
彼女の、それこそ瑠璃色の瞳が寂しそうに見つめてくるから、私は思わず苦笑した。
以前は千空と彼女のあれこれが脳裏によぎって、無意味に距離を置こうとしていたけれど、今はもう違う。
宝島での経験は、幸か不幸か私を変えたのだ。
行儀よく彼女の膝の上に重ねて置かれている手を、私は両手で包んだ。
彼女の青い瞳が驚いたように見開かれたように見える。
「石神村の皆がいたから人類は今も生きている。ルリがいたから、千空のお父さんの言葉を届けることができた」
「…そんな、」
「あなたたちがいたから、今の私たちがある」
過去の人間が3700年も未来に起きるなんてイレギュラーがあるからおかしなことになっているけれど、この石化された世界で生きてきた彼らあってこそなんだ。
石神村も、宝島も。
彼らがいたからこそ、人類史は続いている。
「伝えるのが遅くなってごめん」
過去の伝統を、文化を、言葉を、人という生き物を。
「生き繋いできてくれて、ありがとう」
顔を上げればルリと目が合う。
真っ直ぐ美しい青を見つめ、私なりに微笑んだ。
「そしてお願い。これから更に、私たちの過去も含めて後継して欲しい」
教えるということと、継承は少し違うように思う。
ただの知識ではなくて、そこに宿る想いまで繋いで欲しいから。
そしてそれは、私たち起きた組ではなく、この世界の皆にやって欲しい。
「分かりました」
凛とした声で彼女は言う。
そして柔らかに笑って、私の手を包んだ。
「私たちが、受け継ぎます」
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綾瀬 - 続きの月の船も、もちろん拝読させていただきますが一旦気持ちが抑えられず…コメントさせていただきました…。失礼します。 (4月25日 17時) (
レス) id: 27ab9d3713 (このIDを非表示/違反報告)
綾瀬 - コメント失礼します。毎日読み進め、作品に浸る時間がとても楽しかったです。読み終えて、こんなにも充実した気持ちになる作品に巡り会えとても嬉しい気持ちです。Dr.STONEは勿論好きですが何よりsoraさんの文章力や表現が素敵で思わずコメントしました。大好きです。 (4月25日 17時) (レス) @page41 id: 27ab9d3713 (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - 鈴音さん» 書き込みありがとうございます。星の息を読んでアニメだけではなく原作の漫画まで読んでいただけたいただけたこと本当に嬉しく思います。私もDr.STONEが大好きなので、その気持ちが伝わる文章が書けていたと分かり、作者冥利につきます。完読ありがとうございました。 (2022年2月23日 10時) (レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
鈴音 - コメント失礼いたします。作者様の素晴らしい文章力とキャラ設定がとてもとても好きです！もともとアニメしか見ていなくて、単行本を買うべきか悩んでいましたが、この作品をきっかけに購入しました！素晴らしい作品を読ませていただき本当にありがとうございます！ (2022年2月19日 21時) (レス) @page41 id: e5b68abb09 (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - shiochanさん» ご感想ありがとうございます。単行本で彼らの復活は読んでいて、私もどのように関わろうかと思案中です。なかなか相性が合うのか合わないのか微妙なところなので、違和感のないように描ければと考えています。文字になるまでもう少しお待ちください。 (2022年2月6日 21時) (レス) id: a1dae06abc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：sora
| 作成日時：2020年2月16日 19時
