博愛の賢者�� ページ26
俺も最終的には自らインクで顔に傷を書いたが、その戦化粧こそが俺が科学王国の戦士になるという証だった。
「A」
楽しげに顔や体に傷を書き込んでいく彼らを、少し遠巻きに見ながら穏やかに笑っている彼女へ声をかけた。
驚きもせず振り返るAは、なんだか少し複雑そうだ。
「すまなかった」
誰よりも優しい彼女を、暗い洞窟へ幽閉したこと。
一番嫌がることを強要しようとしたこと。
彼女の最愛の人を、手にかけたこと。
ずっと言いたかったが、言えなかった一言を告げれば、彼女は年相応の笑顔を向けてくれた。
「もう怒ってないし、それは私だけに言うことじゃないでしょう」
そう微笑んだと思ったら、今度は困ったように苦笑して。
「でも今回は千空とゲンにはめられた」
「何かあったのかい？」
「あれ、気がつかなかったの？」
意外だとばかりに目を見開くので、何かはめられるようなことがあっただろうかと思考を回す。
彼女の視線の先には大樹たちと笑う千空と、インクの入った土器を色んな人に回していくゲンの姿がある。
大罪人を前にするには穏やかすぎる光景だな、と思ったところで、ふと気付いた。
「ああ、そう言うことか」
「ふふふ、わかった？」
ほとんど全員の傷を書き終えて、最後だろう彼女の方へ向かってくるメンタリストを、賢者が捕まえた。
「千空のせいで私は司を許さないラスボスにされかけたし、逆に許したことでメンタリストにはアイスブレイクに使われるし」
「あっれ〜〜？なんのこと〜〜？」
「とぼけないでゲン」
どれもこれも、俺を科学王国に摩擦なく受け入れるため。
起き抜けの洞窟では気がつかなかったが、最初の一言の意味を、千空だけは気がついていたらしい。
初対面の石化解除時の言葉。
その後すぐに、俺は千空と大樹に約束した。
願うならあの時のように、同じ道を歩めたらと言う些細な願望から咄嗟にこぼれた一言。
「…うん、どうやら世紀の科学者も、君と同じく、いじらしいほど優しいらしい」
逃げようとするゲンの片耳を摘んでいたAが、俺の呟きを拾って振り返る。
そして言葉の意味を理解すると、ふんわりと花開くように笑った。
「そうだよ。あの人は私を博愛の賢者なんて呼ぶけれど、あの人こそ、誰にでも平等で優しい科学者だよ」
夜を映したような瞳は、遠くにいる救世の英雄をみて誇らしげに笑う。
少しみない間に明るくなった彼女はそう言うが、やはり彼女こそが博愛の賢者だと、俺にはそう思えた。
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綾瀬 - 続きの月の船も、もちろん拝読させていただきますが一旦気持ちが抑えられず…コメントさせていただきました…。失礼します。 (4月25日 17時) (
レス) id: 27ab9d3713 (このIDを非表示/違反報告)
綾瀬 - コメント失礼します。毎日読み進め、作品に浸る時間がとても楽しかったです。読み終えて、こんなにも充実した気持ちになる作品に巡り会えとても嬉しい気持ちです。Dr.STONEは勿論好きですが何よりsoraさんの文章力や表現が素敵で思わずコメントしました。大好きです。 (4月25日 17時) (レス) @page41 id: 27ab9d3713 (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - 鈴音さん» 書き込みありがとうございます。星の息を読んでアニメだけではなく原作の漫画まで読んでいただけたいただけたこと本当に嬉しく思います。私もDr.STONEが大好きなので、その気持ちが伝わる文章が書けていたと分かり、作者冥利につきます。完読ありがとうございました。 (2022年2月23日 10時) (レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
鈴音 - コメント失礼いたします。作者様の素晴らしい文章力とキャラ設定がとてもとても好きです！もともとアニメしか見ていなくて、単行本を買うべきか悩んでいましたが、この作品をきっかけに購入しました！素晴らしい作品を読ませていただき本当にありがとうございます！ (2022年2月19日 21時) (レス) @page41 id: e5b68abb09 (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - shiochanさん» ご感想ありがとうございます。単行本で彼らの復活は読んでいて、私もどのように関わろうかと思案中です。なかなか相性が合うのか合わないのか微妙なところなので、違和感のないように描ければと考えています。文字になるまでもう少しお待ちください。 (2022年2月6日 21時) (レス) id: a1dae06abc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：sora
| 作成日時：2020年2月16日 19時
