博愛の賢者�� ページ23
「教えてくれ…？」
何かのスイッチが入ったように、Aは静かに俺の言葉を反復し、その澄んだ瞳で俺を射抜いた。
「教えることは出来ないよ。だってあなたの問には解がないもの」
そうしてはっきりと、凛とした態度で彼女は告げる。
「私はその問の最適解を知らない。だから教えられない。けれど、私の価値観や意見を、伝えることはできる」
「…」
「それに、あなたが私に乞うているのは『正しい答え』じゃないでしょう」
だってそんなもの、人の数だけあるのだから。
「全ての事象に正しい答えがあるのなら、世界中の戦争は止められる。それが出来ないのは、人が生きる中でどうしてもその人の価値観が絡みついてまわるからだ」
Aは、所在なさげに自分の指先をいじっていたのをやめ、空いた片手を自分の口元へ添えた。
考えるような素振りはその通りで、真摯に俺の問いかけに対する自分の言葉を選んでいるようだった。
「…もしも私に人類復活の技術があって、世界の選択権が委ねられていたとしたら。きっと今やっているように、全人類の復活を夢見ると思う」
「それは、なぜ？」
「…この世の最も偉大なる人々は、無名のまま消えていった。われわれのしっている仏陀やキリストのごとき聖人も、世人が何も知らぬそれらの偉大なる人々にくらべるなら、二流の英雄に過ぎない」
何かの暗唱だろうか。
スラスラと誰かの言葉を読み上げる彼女と、また視線が交わる。
「ヴィヴェカナンダはインドの思想家で『何もしなかった』人々を評価したの」
何もしなかった？
不思議な顔をしたのは俺だけではなく、彼女を最もよく知る男以外が首を傾げた。
「歴史上『何かを成し遂げる』ことばかりに目がいくけれど、野心を持たず、欲に溺れず、身近な人たちを大切にし、黙々と静かに生きる。そしてその生き方が素晴らしいことだと主張することさえしない。そんな人々がいなければ、そもそも人類は繁栄なんて出来ない」
それをあなたは怠惰だと思う？
自分の能力を積極的に世界へ示さず、手のひらに乗るものだけ、自分の腕の届く範囲を愛し、大切にすることは、いけないこと？
「そんなことない。目の前の人を慈しみ尊重することを、当たり前のように大多数の人がしてきたからこそ、今の人類がある」
中には強烈な光が生まれることもある。
分野を問わず、強い重力を持ち、時代の大きな渦の目になる人が。
「けれどどれほど広く知れ渡ろうと、人は独りでは、やっぱり何も出来ないんだよ」
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綾瀬 - 続きの月の船も、もちろん拝読させていただきますが一旦気持ちが抑えられず…コメントさせていただきました…。失礼します。 (4月25日 17時) (
レス) id: 27ab9d3713 (このIDを非表示/違反報告)
綾瀬 - コメント失礼します。毎日読み進め、作品に浸る時間がとても楽しかったです。読み終えて、こんなにも充実した気持ちになる作品に巡り会えとても嬉しい気持ちです。Dr.STONEは勿論好きですが何よりsoraさんの文章力や表現が素敵で思わずコメントしました。大好きです。 (4月25日 17時) (レス) @page41 id: 27ab9d3713 (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - 鈴音さん» 書き込みありがとうございます。星の息を読んでアニメだけではなく原作の漫画まで読んでいただけたいただけたこと本当に嬉しく思います。私もDr.STONEが大好きなので、その気持ちが伝わる文章が書けていたと分かり、作者冥利につきます。完読ありがとうございました。 (2022年2月23日 10時) (レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
鈴音 - コメント失礼いたします。作者様の素晴らしい文章力とキャラ設定がとてもとても好きです！もともとアニメしか見ていなくて、単行本を買うべきか悩んでいましたが、この作品をきっかけに購入しました！素晴らしい作品を読ませていただき本当にありがとうございます！ (2022年2月19日 21時) (レス) @page41 id: e5b68abb09 (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - shiochanさん» ご感想ありがとうございます。単行本で彼らの復活は読んでいて、私もどのように関わろうかと思案中です。なかなか相性が合うのか合わないのか微妙なところなので、違和感のないように描ければと考えています。文字になるまでもう少しお待ちください。 (2022年2月6日 21時) (レス) id: a1dae06abc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：sora
| 作成日時：2020年2月16日 19時
