博愛の賢者�� ページ22
「どうして私が…」
「人類最強様はお前が随分昔に言った台詞をずーーっと引きずってやがんだよ」
「えええ」
「私の台詞って…」と思考を回すAは、困ったように眉尻を垂らした。
きっと、何を俺に言ってしまったのか思い出そうとしている。
俺はそんな彼女の後ろに控えたまま、穏やかにこちらを見てくる千空と目を合わせた。
千空は何かを楽しむように口角だけ上げると、未だ戸惑う彼女の肩を軽く叩いて後ろへ下がる。
まるで、今から俺とAが手合わせでもするような構図に、余計彼女が焦りを見せた。
これは…うん、きっと千空が約束を果たしてくれたんだ。
あの洞窟で、彼女に謝っておいてほしいと言った俺に、彼は「自分で言え」とだけ告げた。
きっと、その舞台を用意してくれたんだろう。
ありがたく思いつつも、なぜか心臓は忙しなく動く。
ただ謝るのではなく、少しだけ、俺は博愛の賢者と謳われる彼女と、話がしてみたいと思った。
「…A、君に聞きたいことがあったんだ」
徐に口を開いた俺に、彼女の遠慮がちな眼差しが向けられる。
そこに敵意や嫌悪はなく、穏やかで、むしろ何を聞かれるのか？と不安げな光が灯っていた。
「君を奇跡の洞窟に幽閉した時、俺は君に言った。俺は選別をしているんだと」
「…」
「その時君は、うん、はっきりと『人でなし』と言ったね」
きっと口の悪い彼女の姿が想像つかないんだろう。
少しだけ俺たちを取り巻く面々がざわつく。
「…言ったけれど」
「俺はその時から、疑問だったんだ」
もしも君が、誰よりも早くこのストーンワールドに起きて、この後の世界を自由にできる決定権を握ったなら。
「A、君ならどうするんだい？」
それは別に、Aに限った話じゃない。
みんなにも考えてみてほしいことだった。
「君の愛する人類が、君が愛する地球を蝕んでいたのは事実だ。70億人なんて数をこの星は支えきれず、あとは静かに自分たちで首を絞めて滅んでいく。それを待つ世界だった」
「…」
「そんな現代を生きていても、君はあらゆるものに恋をして、人類を守ろうとするのかい？より尊いものを守ろうとはしないのかい？」
俺にとって彼女の言葉は偽善にも近い。
夢物語の世界を生きている、典型的な現代人。
「…教えてくれ。俺は、どうしたら良かった？」
答えてみてほしい。
その平和に浸かり、甘え切った言葉で。
俺の強い眼差しから、最初は逃れるようにそらしていた彼女は、真剣な俺の声に態度を改めた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 669人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「Dr.STONE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
綾瀬 - 続きの月の船も、もちろん拝読させていただきますが一旦気持ちが抑えられず…コメントさせていただきました…。失礼します。 (4月25日 17時) (
レス) id: 27ab9d3713 (このIDを非表示/違反報告)
綾瀬 - コメント失礼します。毎日読み進め、作品に浸る時間がとても楽しかったです。読み終えて、こんなにも充実した気持ちになる作品に巡り会えとても嬉しい気持ちです。Dr.STONEは勿論好きですが何よりsoraさんの文章力や表現が素敵で思わずコメントしました。大好きです。 (4月25日 17時) (レス) @page41 id: 27ab9d3713 (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - 鈴音さん» 書き込みありがとうございます。星の息を読んでアニメだけではなく原作の漫画まで読んでいただけたいただけたこと本当に嬉しく思います。私もDr.STONEが大好きなので、その気持ちが伝わる文章が書けていたと分かり、作者冥利につきます。完読ありがとうございました。 (2022年2月23日 10時) (レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
鈴音 - コメント失礼いたします。作者様の素晴らしい文章力とキャラ設定がとてもとても好きです！もともとアニメしか見ていなくて、単行本を買うべきか悩んでいましたが、この作品をきっかけに購入しました！素晴らしい作品を読ませていただき本当にありがとうございます！ (2022年2月19日 21時) (レス) @page41 id: e5b68abb09 (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - shiochanさん» ご感想ありがとうございます。単行本で彼らの復活は読んでいて、私もどのように関わろうかと思案中です。なかなか相性が合うのか合わないのか微妙なところなので、違和感のないように描ければと考えています。文字になるまでもう少しお待ちください。 (2022年2月6日 21時) (レス) id: a1dae06abc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：sora
| 作成日時：2020年2月16日 19時
