15 ページ15
どうやらAの予測は正しかったらしい。
僕達が舟から飛び出して、今にも千空に飛びかからんとするほむらを拘束した時、森の切れ目から大樹やクロム、陸側から千空たちを探していたみんなが出てきた。
正直、僕はまだ彼女をナメていたのかもしれない。
日本の海流を知っていたことにも驚いたけど、なにより地形の変わったこの世界でここを割り出したんだ。
知識豊富なだけの女の子じゃないのかも。
無事にお縄になったほむらと氷月に胸を撫で下ろすなか、大樹の背中から降りたAがまっすぐ千空のもとへ駆けていくのが見えた。
もちろん千空と感動の再会をするんだろうと思ってたけど、どこまでもAはAだった。
「止血しなきゃ！」
「治療道具持ってきたか？」
そしてその反応が当たり前だと言わんばかりの千空も、どこまでも千空らしかった。
彼女の腰の皮袋から、薬草や清潔な布、竹筒が次々と出てくる。
金狼たちが千空の無事を確認する応答も聞こえていないみたいだ。
真剣な顔で一通り司への応急処置を施したA。
簡易的な担架を作って運ばれていく様子を見送り、ようやく息を着いたみたいだった。
「お疲れ様、A」
そんな彼女の肩に手を添えると、はっとした顔を向けられる。
「Aのおかげで2人とも助かったんだよ。あはは、もっと喜びなよ」
大好きな千空も無傷なんだしさ。
そう告げた瞬間、彼女の目から涙が次から次に溢れ出てきた。
おっと、これは…
千空を呼ぼうとした矢先に、代われと肩を掴まれる。
素直にそれに応じれば、号泣する彼女に呆れた顔を見せつけていた。
「A先生はいつからそんなに泣き虫になったんだ？」
「うううう」
言い返す言葉もないと、顔を覆っていた彼女の小さな手が、千空の泥だらけになった服を掴んだ。
「お願いだから…このガーネットをウィドウズリングにさせないで…」
日本には珍しい単語を、重々しげに口にする彼女。
それの意味を知っている人は、きっとこの場に僕と千空以外居ないだろう。
それほど恐ろしかったのだと、彼女の心中を察するなか、言われた本人は緩く口角を上げている。
「ククク。そんときは往復手間賃倍額払ってでも連れてってやっから安心しろ」
「…ふふふ。いったい何文銭必要になるの？それ」
彼女の涙を拭う仕草を最後に見て、僕は踵を返す。
彼らのやり取りに首を捻るみんなに苦笑が零れた。
難解な彼女に難解な彼。
お似合いな2人にこれ以上のお節介は不要そうだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 595人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「Dr.STONE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
sora(プロフ) - さやなぎひまりさん» ご感想ありがとうございます。Dr.STONEから初めて知ったバンドでしたが、とても綺麗でどの曲も彼らに合っていて、少しでも多くの人にその世界観を感じてもらえたらと思っています。共感いただけて嬉しいです。まだ先は長いですが最後までよろしくお願いします。 (2020年7月10日 10時) (
レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
さやなぎひまり(プロフ) - 私がアプリでちまちま読んでやっと追いついたところなのですが、作者様が文学と青春を歌うあのバンドをいかに大事になさっているのかが良く伝わってきました。たしかにあのフレーズは彼を思い出させますよね、大いに共感しました。 (2020年7月10日 9時) (レス) id: 1c54ce4927 (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - 雪姫さん» 書き込みありがとうございます。宜候！素敵な歌で好きです。受験生ということで日々大変かと思いますが、遠くから応援しています。変わらず更新し続けていきますので気長に追いかけていただければ幸いです。2人の関係の変化をこれからも楽しんでいってください。 (2020年3月1日 23時) (レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
雪姫(プロフ) - やっぱり黒曜石可愛いです......!!!!千空と龍水に虐められて拗ねちゃう姿が年相応で微笑ましくなります。続きが気になります......!!!!!! (2020年3月1日 23時) (レス) id: 10ca58f2a4 (このIDを非表示/違反報告)
雪姫(プロフ) - 宜候！端々の芸が細かくてついつい笑ってしまいます。受験生なため、勉強食事睡眠に一日を費やしていて更新を追えない状態ですが今でも楽しみにしています。早く最新話に追いつきたいです。 (2020年3月1日 23時) (レス) id: 10ca58f2a4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：sora
| 作成日時：2020年2月9日 23時
