空十日目 ページ10
「うっひょ、もうこんな時間！？てか寒……！」
どう考えても大きすぎる独り言を零しつつ、マフラーに顔を埋めて足を早める。
「もう真っ暗じゃん……わたしの貴重な2時間が歯医者で溶けた……」
今日は部活を休み、歯医者に定期検診で来ていた。
特に異常はないのだけど、一年以上行っていなかったので、流石に一度行くかということになった。のだが。
まさかこんなに遅くなるとは……。部活も休めてラッキーとか思ってたのに！
「最悪だ……」
それに寒いし。寒いし。
手が冷たいことに定評のあるわたしは、すっかり身体の芯まで冷え切っていた。
はあっ、と息を吹きかけるも、大した慰めにはならない。
「うー、さぶ……」
気がつけばそんなことばかりぼそぼそ呟きながら、下を向いて歩いていた。
こんなんじゃいつ車にはねられてもおかしくないな。シャレにならないことを思いながら手を擦る。
こんなんじゃいかん。今日転んだばっかりなのに。
そう思い直して視線をあげると。
「……ん？」
白く瞬く星が、空に無数に浮かんでいた。
まるで藍色に塗ったキャンパスに白い絵の具をたくさん飛ばしたような、見事な星空だった。
「え、写真写真！」
ゴソゴソとパーカーのポケットを漁り始め、ぴたりと止まる。
スマホが……ない。
「何でこんな時に限って！」
強すぎる悪運に悔し涙を浮かべながら思案する。
……あ、いいこと思いついたかも。
わたしはポケットから手を出すと、両手の人差し指と親指で四角を作った。
割といい感じかも？
四角い指の中に、ぴたりと絵を嵌めたような景色。
たまには、こんなのもいいかもしれない。
「……よし、ケーキ買って帰ろ」
わたしはすっかり上機嫌で、ケーキ屋さんに駆け込むのだった。
______________________
_____________
_____
「ん、なんか鳴ってる？」
家に着くと、ヴーッヴーッとスマホが鳴っていた。
画面を見ると、幼馴染からの電話。
「もしもし？なんかあった？」
そう尋ねると、思いがけない一言が。
『あ、やっと出た！あのね、今日部活でいろいろあって怒られて、休んでた人に報告しとけって』
すると出るわ出るわ、一どころじゃない悶着の数々。
半分愚痴のマシンガントークを右から左へ聞き流しつつ、わたしは少しびっくりしていた。
……なんだかんだ言って、運のいい1日だったかも。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 24人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ねこる。 - えるさん» コメントありがとうございます！わたしの小説で心が透明になるだなんて嬉しい限りです…。もっと色々な表現ができるよう頑張ります！ (2021年10月26日 7時) (
レス) id: b433a40741 (このIDを非表示/違反報告)
ねこる。 - まめふなさん» ありがとうございます！レス遅れてすみません…。お話素敵って言ってもらえて嬉しいです！頑張ってラストまで書きます！ (2021年10月26日 7時) (レス) id: b433a40741 (このIDを非表示/違反報告)
える - なんか単純に綺麗って言葉が出てきました。空の美しい描写、主人公さんたちの感情表現の書き方が綺麗だと思いました。このお話を読んでる間は心が透明になってる感じでした。作者様の書き方尊敬致します。 (2021年10月17日 7時) (レス) @page27 id: cbb903ca6b (このIDを非表示/違反報告)
ねこる。 - 丙ののののさん» コメントありがとうございます！空の描写はめちゃめちゃ時間かけたので、そう言ってもらえると嬉しいです…。今後も感激してもらえるよう頑張ります！ (2021年8月16日 8時) (レス) id: 035a026afe (このIDを非表示/違反報告)
丙のののの(プロフ) - 1話目を読み終えたところなのですが…これは…空の描写が美しすぎますね…！くどくないのに美しい情景が伝わる描写…占ツクで初めて見つけました。感激！ (2021年8月15日 22時) (レス) id: 4482ed7f20 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ねこる。 | 作成日時：2020年6月5日 8時
