熱帯魚 ページ2
ーーお疲れー。これから職場の人と飯。ーー
佑樹からの返信はわりとすぐに来た。
元からお互い絵文字を使う方ではないし、
束縛をしたりもしない。
だけど、それだけではないこの心の中の違和感は、
きっと、
長年の付き合いから、
気付いてしまうものなのかもしれない。
ーーお疲れ。了解。ーー
それだけ返して、ケータイをバッグに放り込んだ。
今日は暖かい。
この都会で感じる、
頬にあたる風が厳しく突き刺す季節は、
札幌で生まれた私にしてみれば、
ものすごく、一瞬で。
……もう、春か。
札幌はまだきっと、冬の残りがあるんだろう。
そんなことを考えながら、
夕飯をいつものコンビニで買って、
今じゃ実家よりも落ち着ける一人暮らしの部屋へと帰る。
A「ただいまー……」
当然のこと、やたらに静かな部屋の奥、
熱帯魚の水槽がその存在をアピールするかのように、
ジジジジジ…と鳴ってるポンプの機械音。
明日はやっとの休み。
休みは不定期で、あってないようなもので。
地方出身の私に、
友達を増やす時間も与えてはくれなくて。
……まぁ、人見知りだし、
好きでやってる仕事なんだけど。
でもたまに、
札幌の濃い酸素を思い出して、
息苦しくもなる。
いつからか、
東京はもうあったかいんだ、という思いから、
札幌はまだ寒いのか……と思うようになった。
A「あ……DVD借りるの忘れた…」
大きめの独り言をつぶやいて、
女っ気のない内容のコンビニ袋と上着を、
4年前、
佑樹と2人選んだソファに投げ置いた。
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作者名：ぽる
| 作成日時：2015年5月28日 16時
