【ヒロアカ】助けて、ヒーロー！【轟焦凍】 (ページ21)

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幼いころ、ヒーローだった両親に憧れを抱いていた。お父さんは強く、お母さんは優しい。二人とも、世間に頼られる偉大なヒーローだった。
　お父さんは言った。「個性なんて無くとも、人は強く生きられるよ」
　お母さんは言った。「人は個性を選べないもの」
　二人は言った。「ヒーローは人を縁取るものじゃない。人が歩いてきた道のりにヒーローという名がつく」
　二人の足跡には、確かにその名がついていた。
　だから、ヒーローに憧れていた。同時に、ヒーローを諦めていた。強くてかっこいいヒーロー、優しくて安心するヒーロー。私はそのどれでもない、自分の歩く道を振り返った時に見える英雄になりたいと、そう思っていた。
　だから、私の選択に後悔はない。ヒーローを支える道、邁進するその先にある景色、背後に続く足跡、そこに私のヒーローがいると信じて止まなかったから。

「みなさん、逃げて！」

◯

　対峙するは、脳が剥き出しになった敵。辺り一面に瓦礫が崩れて割れて、人気の有無なんてわかるはずもない。きっとみんな逃げたに違いない。祈るような憶測を掲げ、私は後ずさる。彼は近づいてくる。
　怖い、何か策があるわけでもない。怖い、私は殺されてしまうかもしれない。でも、みんな今のうちに逃げられる。でも、でも……！「人はいい！自分の命が可愛いだろ、逃げろ！」「ヒーローの娘だろ、命を懸けてでも守れ！」二律背反が螺旋状に絡まり、やがて解けない塊を作る。
　敵が腕を振り上げた。「引け！」「戦え！」「見捨てろ！！」「救え！！」「逃げろ！！！」「守れ！！！」拳が落とされようとした。憎悪に染まった血肉色の彗星のような拳だった。私を目がけた。彗星は直下していく。
　死を覚悟した。死んだ後ってどんな世界？天国と地獄？それなら天国に行きたいなあ。私の足跡はここでおしまい、天国へ向かって飛び立つ。ああ、それは閻魔大王様が決めるのでしたね。
　逃げた人はどこまで行ったでしょうか。「逃げろ！」「守れ！」敵が追う範囲外まで行けたでしょうか。「逃げろ」「守れ！！」ああ、そうだ。きっと、この行いはムダじゃない。ほら、証明できたじゃない。私でも、無個性でも誰かを助けられたのです。「守れ！！！」

　私は歩いてきた道のりを、そっと振り返ろうとしました。