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…【370】 ページ27

「ごちそうさま。」
階段を降りると裕太のそんな声が聞こえた。

「そのままでいいぞ。俺やるから。」

「ありがと、ミツ兄。」
ずっと家にいるせいか、裕太は宏光にベッタリで、宏光も甘える裕太に満更でもない様子。

「なぁ裕太、手術してさ…」
いつもみたいに食堂に入ろうとして、その足を止める。

「手術…出来るかな?」

「出来んだよ…。で、病気治ったら、何がしたい?」

「んー…サッカー…したいかな?」

裕太の小さな夢。
大好きな“ミツ兄”と一緒にサッカーをすること。

「サッカー?」

「うん。僕はいつも見てるだけだったでしょ?だから、みんなと同じように走ったり、サッカーしたりしたい。」

「そっか。じゃあ、治ったら、俺とサッカーしような!」

「ホント?」

「マジだって。」

「あ…でも…ミツ兄は…」
もうすぐ、ここを卒業する…。

「連絡くれたら、すぐに来るから。ちゃんと連絡くれよ。」

「うん!」

「じゃ、約束な。」
宏光は小指を立てて、裕太の目の前に差し出した。

「うん、約束…。」
裕太もそれに笑顔で応じる。


「2人で何を話してたの?」
2人のゆびきりが終わった所で食堂に足を踏み入れる。

「内緒。」
即答の宏光。

「えー…。裕太、宏と何話してたの?」
裕太にも聞いてみる。

「ナイショ…。だって、“男の約束”だもん…。」
裕太の口から“男の約束”って聞くとは思わなかった。

「この家は“男の約束”ばっかりだから、私、入れないじゃん…。」
ちょっと大げさに肩を落としてみる。

「いじけてもムダだぞ、A。可愛くないからな。」

「宏っ!」

「ごめん、ごめん。」
宏光のこの顔…。
ちょっと憎たらしいけど、憎めない表情。

「あ、牛乳買うの忘れた……。」
そのまま視線を宏光に向けてみる。

「人使い荒いんですけど…」

「まだ何も言ってませんけど…」

「買いに行けって言ってるんだろ?」

「バレた?だって、お手伝い中でしょ?」

「まぁ、そうだけど…。」

「はい、いってらっしゃい。」
宏光にお金を渡す。

「ったく、しょーがねーな…。」
ブツブツ言いながらもコートを着て玄関に向かう宏光。

こんな所は素直な我が家の長男なんです。

宏…ありがとう。

さっきの裕太との話…。

きっと裕太が、これ以上不安にならないようにしてくれたんだよね。

宏光だけじゃなくて、高嗣も、他のみんなも…。

みんなが裕太が手術を受けられるようになって、元気になるって信じてる。

私も前を向かなきゃ…。

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作者名:浅緋 | 作成日時:2015年12月5日 23時

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