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*Side:宏光*
愛未が入院している間、俺は虹の家でお世話になることになった。
「昨日は裕太で、今日はお前か?この家は一体どうなってんだよ?」
ベッドの下にちゃっかり布団を敷いてるのは太輔。
「渉は帰ったぞ。」
「渉は店があるから仕方ないじゃん?」
そりゃそーだけどさ。
「てか、彩はいいのかよ?心配じゃねーのかよ?」
「今日は実家に泊まるって。久しぶりに会ったんだから、積もる話もあるでしょ?ってさ。」
「ふーん。出来た嫁さんだこと。」
って、皮肉を込めて言ってみれば…
「でしょ?俺の自慢の嫁だもん。」
だってよ。
「太輔、ありがとな。」
「なにが?」
「なんつーか、お前の一言で吹っ切れたっつーか…。」
「そっか。ちゃんと決めたんだろ?」
「あぁ。俺、愛未と一緒になるよ。」
「ちゃんとしなかったら、ぶっ飛ばすからな。」
「暴力はんたーい。」
急に真剣な顔してなんだよ?
何か言えよ。
「もし…もしだよ?もしも、ミツがミツの親父さんみたいになりそうになったら、迷わずここに帰って来てほしい。」
「あぁ、そうする。」
“答えがほしい”
もし、そう思う時が来たら、俺は迷わずここに帰ってくるよ。
ここは俺の“帰る場所”だから。
「なぁ、太輔。昼間、渉が言ってたことだけど…。」
「“何も考えないで結婚したと思ってる?”ってやつ?」
「あぁ、実際はどうだったんだよ?抵抗はなかったんだろ?」
「抵抗はなかったよ。まぁ、俺の場合は、それ以前の問題。」
「はぁ?」
それ以前の問題ってなんだ?
「紫月先生の話だと、俺の中では“愛情”が欠落してんだと。他人を大切に思えなかったりする場合もあるんだって。」
何年も一緒にいるけど、そんな風に感じたことはなかったけどな。
「でも、彩とは何年も付き合ってたじゃん。」
俺の記憶が正しければ、確か高1くらいから付き合ってなかったか?
「最初は付き合うって意味がわかんなかった。」
「お前、ただのポンコツじゃねーか。」
「そう、ただのポンコツ。」
「で、そのポンコツは…」
「ポンコツ言うなよ。」
「わりぃ。で、太輔はなんで結婚しようと思ったんだ?」
「“家族”って考えた時に、彩のことしか浮かばなかった。彩と家族を作りたいなって。」
なんだ…俺も太輔と一緒なんじゃん。
「ミツ?寝たのかよ?」
その夜、不思議な夢を見た。
お父さんとお母さんと小さな子供のいる夢。
あの日以来、一度も見たことがなかった、あったかい夢だった。
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作者名:浅緋 | 作成日時:2017年1月28日 0時