石の世界の片隅で5

220話 ページ28

その頃、羽京は走っていた。

…初めてだ。
初めて、人を殺したいと、思ってしまった。
きっと、千空達は気づいてた…、僕がこっちになったのは、それも理由の一つかな。
……情けない。
近くにいなきゃ、守れない。
悔しい、悔しいよ。A。
せめて、そっちに早く行けるよう。
こっちは直ぐに、終わらせる。

頭首の集落へ着いた羽京は、僅かに残った護衛を引きつけるためボヤを起こす。
火のついた矢は、羽京の心情を表すように、ぶれることなく真っ直ぐ鋭く飛び、それぞれの箇所に突き刺さった。



千空達も船を使い、ペルセウス号へ近づく、途中でゲン達とも会い、総勢9人でペルセウス号に乗り込んだ。

わあああああああ

船の上は乱戦状態であった。
どん、どんという銃の放たれる鈍い音。
ごん、という誰かが殴られる音。
樽が壊れる音。金属に物が当たる音。人が倒れる音。
ありとあらゆる音の波に溢れていた。

そんな中、龍水はある人物を探していた。

どこだ！何処にいる!?
A !!
中央にはいない!!
船首の方か!?

ゲンの虚言で数は減ったとはいえ、まだまだ向かってくる敵は多い。
龍水は、それらの相手をいなし、真っ直ぐ船首へと向かっていった。

…いた!!!!!!

Aはイバラに手を捕まれ、へたり込みながらそこにいた。

｢A!!!!｣

……!!!!
この声は、龍水さん!?

Aはばっと顔を上げた。
そこには、焦ったような顔をした龍水がいた。

龍水さん、龍水さん!!
生きてる!!良かった!!!!

龍水の元へ向かおうとするが、イバラの手が邪魔をする。
Aは自分を掴む手を思いっきり噛むと、イバラが怯んだすきに、走り出した。

｢…龍水さん!!!!｣

｢A!!!!｣

両手が縛られ、度重なる仕打ちで弱った身体は、直ぐに体勢を崩す。
どっと倒れ込みそうになるところを、龍水が受け止めた。

｢はっはー!!大事な船員、返してもらうぞ!!｣

……!!なんだ、これは!?
これが、女にやることか!?

龍水の目には、血だらけの3対の翼ときらきらと背中で輝く塩が映った。
その秀麗な顔を歪ませると、Aを抱き上げ、千空達の元へ走る。


｢千空！いたぞ!!Aだ！｣

｢よくやった!!そのまま守ってろ!!｣

…A。ようやくだ。
ようやく手が届いた！

｢やべえ！モズだ！こっち来るぞ!!｣

クロムの声が皆に伝わる。
一同が視線を向けると、舟に乗ってこちらへ迫り来るモズの姿が見えた。
陽は咄嗟に銃を放つも、モズの素早さには足りず、海中へ投げ飛ばされた。

221話→←219話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す