夜のバス、銀河鉄道 _ybhk+ytin

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ブブッとスマホが震える。
裕翔からだ。

明日楽しみ過ぎて寝れない!

うさぎがはしゃぐ変なスタンプも送られてきた。
声出るかなあ、と返す。


明日は久々に部活に顔を出す。
3年になってから、ほとんど行けてなかった軽音。

裕翔はまだ2年だからこれからがいちばん楽しいよな。
ドラム上手いんだから、
もっと練習やれるやつと組めば良いのに。
カメラも忙しいから薮くんくらいが丁度いいんだよ、
と言って聞かない可愛い奴だ。


さっきの変なスタンプを開いてみると、
課金スタンプだった。
こんなのに金遣う意味が分からん。

くく、と声に出さず笑っていたら、
いつの間にか目の前の船がこくりこくりと出航してた。

どれどれ、今日は、と覗き込む。
わお。
裕翔のドラムがびしびし身体に伝わる時くらい、
全身がドキドキして堪らない。

ああ、今日の頭の中はそんな感じなんですね、なんて
心の中で拍手をしていたら、
いつも大切そうに握るペンが落ちかけている。

あーあー。
バスで落とすとあっちにこっちに、大変だぞ。

すっと抜いて座席にでも置いてやるか？
いやでも座席に置いたら忘れて帰るかもしれない。
いや、その前にきっと起きちまう。
けど落っことして壊れでもしたら？
きっとこのペンは裕翔のLINEスタンプよりも、
俺が使ってるシャーペンよりも高い。


バスが大きく揺れる。
ペンがポトリとスケッチブックに落ちる。


あぶな、

座席を乗り出して慌てて押さえる。
ああ良かった、間に合った。


そぉーっと座席に置いて戻ろうとしたとき、
イヤな予感がしてちらりと横を盗み見る。




すっかり夢の世界に旅立ったはずの奴は、
猫みたいな大きな目を
ぱっちり開いてこっちを見ていた。



「なっ…」

「…寝てたんじゃねーの？って？」



舌ったらずでなんだか想像してたのと違う幼い喋り方。

ほら、と指差すのはバスの外？
違う、窓ガラスだ。
呆けた顔をした俺をくっきり映す、窓ガラスだった。



「…いつから見てたの」

「去年の秋くらい」

「…」



さっき起きてから、という答えを期待してた俺は、
前の座席の背もたれに手をついて
小さくなるしかなかった。



　

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