十五話 ページ17
私は、歓喜のあまり震えた手で包みを受けとると、心の底からの感謝を述べた。
「ありがとうございます!」
そんな私に黒髪役者様は「喜んで貰えたなら良かったです」と微笑みを浮かべた。
金髪はほっとしたような表情をする。
冷え込んだ空気が暖かさを取り戻した。
しかし、私は本来の目的を忘れた訳ではない。
包みを机の上に置くと、ゆっくりと金髪野郎に近付いた。
ほっとしたような笑みが再びひきつる。
「お客様、少し屈んで頂いても宜しいでしょうか?」
「い、良いッスけど……」
そして彼の胸ぐらを掴み、恨みをたっぷり込めて囁いた。
「今回はあの役者さんに免じて無かったことにしてやる。次はないからな」
金髪野郎は顔を青ざめながらも、安堵の表情を浮かべた。
あの菓子はおそらく「これで勘弁してくれ」という意味だ。
あの八木澤屋の菓子が食べられるのなら、怒りの一つや二つ抑えよう。
私はすぐに営業用笑顔に戻ると、「それでは、失礼致しました」と言って受付を去ったのだった。
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両替所を出ると、女性達に会わないように裏道に入った役者二人のうち、氷室が小さくため息をついた。
「あのお嬢さんの殺気は中々のものだったね」
「流石、"こっちの世界"の強者しか雇わない赤司っちが選んだだけはあるッス」
「全くだよ。また「影蛇」が力を着けてしまうね」
黄瀬は感心を込めて苦笑した。
実の所、黄瀬は赤司を尊敬している。
あの他を抑え込む圧力。
他の追随を許さない功績。
それでいて、人を惹き付ける魅力。
あれには本当に叶う気がしないと、黄瀬は度々感じている。
対する氷室は、特に感慨も抱いていないようだ。
気を紛らわすように黄瀬は軽口を叩いた。
「折角の"頭領"へのお菓子も上げちゃったッスね」
「でも、「影蛇」の面子に個人的な恨みを持たれるよりはましだろう?」
「それもそうッスね」
割りと明るく振る舞ってはいるが、黄瀬は組織の話題が好きではない。
表情が自然と硬くなる。
そして、小さな声で呟いた。
「……いっそ「赤龍」なんて潰されれば良いのに」
そんな黄瀬に、氷室はため息をつくと、慰めるように軽く叱った。
「黄瀬君、滅多なことは言わないでくれ。俺は海陽が好きなんだ」
「分かってるッスよ……」
澄んだ青空に雲が掛かり始めていたのだった。
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作者名:シフォンケーキ | 作成日時:2014年7月15日 12時