俺は君の特別になりたい (ページ8)

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｢…北山…久しぶり｣

久しぶりに聞いた声はすっかり変わっていた。
キャンキャンと高く元気だった声は数年で低く落ち着いたものになっていた。
雰囲気も、背も格好も、呼び方も…知らない人になったみたいだ。
なんだかそれも悲しかった。

「なんだよミツ、お前イケメンくんと知り合いなの？」

イケメンくん。どうやら太輔の事のようで、確かにイケメンになった。
あの頃はそんなすごい目立つタイプでもなかった。でも多分クラスで優しくてモテるタイプ。それがいつの間にかこんなにかっこよくなっちゃって。
その成長も隣で見たかったなんて思う自分はきっとまだ太輔の事を諦められてない。

「おう。幼なじみ！俺が高校入ったくらいで疎遠になっちゃったけどな」

気まずいのがバレないようにニコッと笑ってその場を凌ぐ。

「じゃあミツ、イケメンくんの隣で飲みなよ」

いや、それは…ちょっと…かなりしんどいんですけど…？
でも、もしかしたらあの時避けられてたのも時間が解決してくれたりとか…しないかな…
なんて思うけど、チラッと太輔の方を見るとその目はもう俺の方を向いてなくて、きっと俺達は昔と同じできまずいまんまなんだろう。

「元気…してたか？」
「うん」
「一人暮らし始めたの？」
「うん」

久しぶりの会話は弾む訳もなく、ただただ気まずい雰囲気を醸し出していた。
俺が何か話題を捻り出しても太輔は話を広げる気はないらしく素っ気ない返事しか返ってこなかった。
やっぱりダメか。
こんなの酒を飲まないとやってけない。

「…グラス、空だけど、たい…藤ヶ谷なんか飲む？」

名前を呼びそうになったけど、太輔も俺の事苗字で呼んでるし仲良くするつもりは毛頭ないんだろう。それなら俺も距離を取った方がいい。
適当にメニューをペラペラめくっていると｢宴会に大人気！生ビールメガサイズ！※通常のジョッキの3倍あります｣なんて書かれたのがあった。
これだ。今日は酒で潰れてしまおう。そしたらこの緊張も、焦りも全部なくなる。
この胸のモヤモヤも悲しさもきっと酒が忘れさせてくれるはずだ。

俺は迷わずコレを頼んだ。

太輔の方をチラッと見るとカクテルやサワーを結構なペースで飲んでいた。酒に頼りたいのは俺だけじゃないようだ。

俺も結構な量をハイペースで飲んでしまったから
そこからもう記憶はプツリと途絶えた。