俺は君の特別になりたい (ページ29)

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それからまた俺は太輔の家に行くようになった。
今までと違うのは太輔から「家においで」って誘いが来ること。
俺から自発的に行くことは無くなった。太輔から誘われた日だけ。

…それと前より太輔が優しいってことだ。
まるで女の子を相手にしてるような。
どういう風の吹き回しだろう。

横尾さんに聞いた話だと太輔は彼女に振られたらしい。
彼女に振られて寂しい気持ちを俺で紛らわしてるんだろうか。
……それもなんだか嫌だ。

基本太輔の家に遊びに行けば泊まりだ。
帰ろうとしても「泊まっていくよね？」といつの間にかリビングに戻される。
家に帰るのを諦めて、居心地悪くカーペットに座れば

「シャワー浴びてきなよ」

と浴室に促される。言われるがままシャワーを浴びて、太輔が用意してくれた少しぶかぶかの服に着替えて部屋に戻ると太輔にタオルを奪われてわしゃわしゃと頭を拭かれる。

「乾かさないと風邪ひくよ？」

なんて甘い声で言って、ご丁寧にドライヤーをかけてくれる。
夢の中なんじゃないかとか妄想の中なのかと思うけど現実だ。

なんなら寝る時だって床で雑魚寝しようとする俺をベッドで寝かせて、太輔は俺の事を抱きしめて寝るのだ。
最初こそ抵抗していたけど今はもうしなくなった。抵抗すればするほど抱きしめる力が強くなるのだ。

いいや、今だけでも恋人気分ってやつを味わうのも悪くないかもしれない。
結局は自分が傷つくだけだけど。
太輔は俺と元カノを重ねて見ているだけだと思うけど。
きっと太輔に彼女が出来れば俺は御役御免でまた太輔と関わりの無い日々を過ごすんだろうか。

俺…太輔にとって都合のいいだけの奴なのかな

そう考えたら涙が出てきそうで、涙が溢れる前に目をつぶった。

やっぱり、太輔の近くにいるのは辛い。
太輔の家に行くようになってから、ただくんと会う機会も減った。
それでもたまに飯の誘いは来るけど、太輔の誘いと被った時、俺は何故か太輔の方を優先させてしまっていた。

諦めるとか言って全然諦められてないじゃん。

「最近付き合い悪くなったな～」
「そんなことないよ」

久しぶりのただくんとの食事。
そんなことある。自覚してる。
だってだいたいバイトか太輔の家かの2択だ。

「最近何してるん？」
「バイト」

なんだか、ただくんには太輔のことを後ろめたい気分になって、会話もいつもより続かない。素っ気ない答えばかりしてしまう。

こんなの良くないのに。