閑話1 ページ1
太宰さんが居なくなって2年という長い月日が経つ。
その中で私を取り巻く環境は少しずつ変わりつつあった。
私は太宰さんの直属の部下。
しかし、太宰さんが居なくなった今、私は兄さんの部下として活動している。
兄さんは太宰さんとは違って仕事を押し付けないし、神経を逆撫でするような事も言わない。
…けど、私の心の内はポッカリと大きな穴が空いていた。
それは、太宰さんが居なくなってからずっと空きっぱなしで、埋まることの無いもの。
そんな思いを再び自覚し、ハァ、とため息を吐くと上から影が落ちる。
誰だろうと思い、顔を上げるとそこに居たのは芥川君。
「……」
芥川君は何を言うでもなく、私の横に立つ。
そして広がるのは沈黙の時間。
しかし、決して気まずくはなかった。
私達は元々太宰さん直属の部下であり、同い年ということもあり、仲がよかった。
……と言っても、太宰さんが居なくなってから私達は話さなくなった。
当然と言ったら当然かもしれない。
私達を繋ぐものは太宰さんだった。
芥川君は太宰さんに執着し、認めてもらうために私がアドバイスをする。
そんな関係だった。
けれど太宰さんが居なくなった今、私達は話すことがない。
そうして何も言わず、二人沈黙を貫いている時、
「…貴様は、何故太宰さんに着いていかなかった。」
静かに言葉を紡がれた。
着いていかなかった?…違うよ。
「着いていけなかったんだよ。…確かに太宰さんは最後に私の元へ挨拶に来てくれたのかもしれない。」
……でも、
「それだけだよ。あの人は私が着いてこないようにいつの間にか睡眠薬まで私に飲ませていた。……着いていかなかったんじゃない。着いていけなかったんだよ。」
思い出すと涙が溢れそうになるが、グッと堪える。
「……ハハ、憐れだよね。私はあんなにも太宰さんの事を嫌っていたのに、いつの間にか私は太宰さんに惹かれ、忘れられなくなっていた。」
確かに、嫌いだったはずなのに、いつの間にか惹かれていた。
「“君は何れ、私のものとなり、私の事を求め続けるよ。”」
ずっと前、太宰さんに言われた言葉。
「当たっちゃっなぁ……」
こんなにも鮮明に覚えている自分の記憶に腹が立つ。
こんなもの、覚えていても苦しいだけなのに、
「……芥川君。私、決めたよ。」
芥川君は静かに私を見詰めている。
「────私、太宰さんの事を忘れることにする。」
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山猫(プロフ) - ゆちよきしさん» 全然大丈夫です!もう描いてもらえるだけで本当にありがたいんで!! (2019年2月27日 23時) (レス) id: 8fa618dd04 (このIDを非表示/違反報告)
ゆちよきし(プロフ) - 山猫さん» 了解です!少し絵柄が違うかもしれませんが、その時はすみません... (2019年2月27日 22時) (レス) id: 74d3721888 (このIDを非表示/違反報告)
山猫(プロフ) - ゆちよきしさん» 描いてもらえるだけで本当に嬉しいのでどちらでも大丈夫です!描いてくれて本当にありがとうございます! (2019年2月27日 22時) (レス) id: 8fa618dd04 (このIDを非表示/違反報告)
ゆちよきし(プロフ) - 山猫さん» 夢主ちゃんのことなのですが...4年前と現在の姿は別々のイラストが良いですか?それとも一緒の方が良いですか?2パターン描いてはいるのですが... (2019年2月27日 22時) (レス) id: 74d3721888 (このIDを非表示/違反報告)
ゆちよきし(プロフ) - 山猫さん» 了解です!いえいえ!!ありがとうございました! (2019年2月19日 8時) (レス) id: 74d3721888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:山猫 | 作成日時:2019年2月9日 14時