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優しく紙袋の封を切ってみると、中には無数の何かが存在していた。サイズは大小様々だが、ひとつひとつ異なった梱包をされている。丁寧さが垣間見える、というべきか。
 どの形状を見てもやはり見当は付かず、思案するだけでも仕方が無いので試しに一番上の包装をといてみた。

 『…お金?』

 そこには、分厚い束を成す薄い札があった。ぺらぺらと捲るも、全てに諭吉の顔が見える。正確な金額は分からないが、一般人が気軽に手渡せるような額で無い事だけは確かだ。こんな大金を目にするのは、今日で、2回目。
 恐る恐るほかの包装もといてみると、今流行りのスイーツやら季節の洋服やら、いかにも女性受けを狙ったようなそれらは、明らかに見覚えのあるものばかりだった。

 心無しか増えている物品たちのその中に、隙間を縫うような1通の横型封筒を見つけた。風貌はまさしく手紙そのものであり、読んで下さいと言わんばかりである。
 差出人も宛名も無い、新雪のように真っ白な封筒。まるで人の干渉が一切無かったかのような。

開くのは、怖い。けれど、気持ち悪くても不愉快でも、誰かからの説明の言葉が欲しい。

 私は片手で糊付けされた封を切り、中から一枚の便箋を取り出した。

 
 〈敬愛なる女神様
 どうか僕の御無礼をお許しください。女神様への貢物があんな雑な形で許される訳が無いのに、僕はそんなことも考えず、とても愚かな行いをしてしまいました。これが僕の精一杯です。
 女神様がお望みならなんでも叶えます。女神様に全てを捧げます。
 これが僕の恭順の証です。貴方の側で、貴方を信仰し続けます。
 貴方の一番の信者より〉
 

 足元から体温がぐっと下がり、体が冷え切るのがわかる。

 紙は所々よれており消し跡も多く確認できた。筆跡も書道のお手本のようである。この文章を私に差し出す為に、彼がした努力が目に浮かぶ。
 目に浮かぶ、とはあくまで比喩表現である。実際は目に浮かぶ前に無理やり掻き消した。考えたくも無かった。考えれば考えるほど理解不能で、ただ脳の思考エネルギーを浪費しているだけとしか思えなかった。

 全身に悪寒が走り、紙袋も手紙も置き去りにして店を飛び出した。自宅まで電車で30分。手元の定期を握りしめつつ、意味もなくタクシーで帰路に着いた。

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作者名:えん | 作成日時:2024年2月27日 15時

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