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彼はやはり俯いたまま、鞄を漁ったかと思うと中から分厚い封筒が飛び出してきた。間髪入れずに、食べ物から洋服から、四次元ポケットもびっくりなありとあらゆるものが顔を出す。
「僕、昨日緊張してて！！貢物とか、絶対要るのに、忘れてて。だから、今日たくさん持ってきたんです！」
そう言い放ちながら顔を上げる彼の瞳は確かに熱を帯びていて、まるでクリスマスプレゼントを目の前にしている子どものようで、 その純粋な眼差しと言葉のちぐはぐさが彼の不気味具合を助長していた。
もういっそ、恋人にして欲しいだとか、LINEを交換して欲しいだとかの方がはるかに気が楽である。お客様を丁重に扱いたい気持ちと、面倒だから逃げて出禁にしてやりたいという気持ちがぶつかって気持ち悪い。
こんな時の対応、マニュアルに記載されてたっけな、と自身の中で軽い冗談を吐いてみる。そうでもしないと、相手にペースを呑まれてしまいそうだった。
『お客様、そういうのは……困りますので』
刺激しないよう細心の注意を払い、宥めるように語りかける。すると、彼は眉尻を下げ萎れた顔をした。続ける言葉もなく、ただただ落ち込んでいるように思える。まるで雨に濡れた子犬のようだった。
この手のタイプはこちらの反応などお構い無しなイメージだったものだから、存外拍子抜けしてしまっているのを感じる。きちんとお断りすれば自身を省みてくれるのかもしれない、なんて淡い希望が芽生えたような気がした。
萎れたお客様の前では空気が重い。あまりの悲しげな表情から湧きあがる罪悪感でとりあえずご注文を伺ってみると、考え込む様子もなくやはり彼はハンバーグセットと言った。
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作者名：えん | 作成日時：2024年2月27日 15時
