忘れ恋 Ⅱ [黒] (ページ20)

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「Aさん、お先です。お疲れさまでした！」
「はーい、お疲れさま。気をつけてね」

定時になり上機嫌で帰っていった後輩くんは、この後彼女と待ち合わせをしているらしい。若いっていいなあ、なんて年寄りじみたことを考えながら私も帰り支度をする。
後輩くんから名前を聞いたせいか、いつもなら外食かコンビニで夜ご飯を済ませるけれど今日は何かを作りたい気分。料理は全く出来ないわけじゃない。やらないからと遠ざけていただけ…のはず。

意を決して帰りにスーパーに寄り、食べたいものを頭に思い浮かべた時、なんとなく食べたいと思ったオムライス。
材料を調べて食料を買い込んで帰宅を急いだ。

彼は今元気にしているだろうか。
樹くんに聞いたらすぐに答えてくれると思う。だけど私はずっとそれをしなかった。戻ることを選択した彼の意志と、その背中を押した自分の決意は生半可な気持ちじゃなかったから。
それでもたまに私の名前を呼ぶ幻聴が聞こえてくることがあるし、無性に会いたくなる夜もある。そんな日は決まって彼が読んでいた本を読んで、彼が見ていた世界に浸る。…多分今日も読むんだろうな。と苦笑いをして角を曲がると、エントランスに人影が見えた。

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