忘れ恋 Ⅱ [黒] (ページ15)

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抱きしめていた手を解く。
きっともう戻れない。それなら、これはきっといい意味でキッカケになったんだと思う。
いつかは話さなければならなかったことなのだから。
雨の背中を見上げた時、なんとなく視界が滲んで見えた。「え？」と思った時にはもう遅くて、何年ぶりか知れない雫が頬を伝う。
それまで動かなかった雨が振り向こうとしたのが見える。すぐにその動きを止めるように雨の手を取ったのに、雨は私を振り返ってしまうからあっさりと泣いているのがバレてしまった。

「また泣いてる」
「…また？」

まるで前にも見た、とでも言いたげな彼の瞳は優しかった。

「覚えてない？最初に会った時のあなた、俺よりもずっと泣きそうな顔してたよ」
「…それは…分からなかった」
「だろうね。Aさんはいつも無自覚だから。そういう意味で俺たちはきっと似てるんだと思う」

そう言った彼の細い指が涙を拭ってくれる。あまりにもその手つきが優しくて、私を見る目が優しくて、胸のあたりが熱くてまた泣きそうになる。

「何もかも捨てたなんてダセェなって自分でも思ってたけどさ、なんだろ。やっぱりそれはAさんのお陰」
「私は何もしてない」
「無自覚にもほどがあるでしょうよ。今までずっと俺のこと置いててくれたじゃない」
「それは放っておけなかったからで…」
「どうにでもなれって自暴自棄になってたガキを何も言わずに置いてくれた。それがAさんだったから、根っから腐らずにいれたんだって思う。これがどれだけ凄いことなのか分かってないでしょ」