Feather (ページ34)

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差し伸べたいページ34

「じゃあ私、先に教室に戻るね」
「うん。もう大丈夫？」
「ん、大丈夫」
「そっか。俺はこれ読み終えたら帰るから、気をつけて帰ってね」
「分かった。ありがとう京本くん」
「どういたしまして」

倉庫室を出る前に京本くんを振り返ってみたら、黙々と漫画を読むことを再開した横顔は真剣そのもので。
自由気ままな京本くんにふっと笑みが零れ、教室へと向かった。

既に人がらまばらな教室に戻っても誰も何も言わなくて、猫缶を忍ばせておいた鞄を片手にいつもの空き地へと足を踏み入れる。

そういえば今日はミケちゃんの好きなちゃおチュールを持ってくるのを忘れたことに気づいたけれど、明日持ってくればいいかな。
なんて考えつつ土管を覗くと、ミケちゃんがこちらを見て『待ってました』と言わんばかりに「にゃーん」と鳴いている。

「昨日は来れなくてごめんね」

猫缶を開いてミケちゃんに差し出すと、ピンと尻尾を立てて背伸びをしたミケちゃんが美味しそうにご飯を食べ始める。
食事の邪魔をしないように土管の中、ミケちゃんの隣にしゃがんでみる。

昨日は北斗といたから来れなかったこの場所に田中くんはいた。
その時田中くんは何を考えていたんだろう。
スランプだって噂されている部活を休んで、私が渡したちゃおチュールをミケちゃんにあげながら、どんなことを考えていたのか私には分からない。

それでもあの時、あの美術室の田中くんはいつもの田中くんじゃなかった。

きっと私なんかが計り知ることの出来ない何かがあった。
でも田中くんはそれを口にすることはない…と思う。

「…難しいね、ミケちゃん」

力になれるなら、なりたい。
田中くんと初めて出会ったあの雨の日のように、誰かに押されて水溜まりの上に転んでびしょ濡れになった私に手を差し伸べてくれた時のみたいに、今度は私が手を差し伸べたい。