Feather (ページ35)

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あの時ページ35

『大丈夫？』

邪魔だと押されて水溜まりの中心に座り込む私を誰もが通り過ぎていくのに、ただ一人だけ私に手を差し伸べてくれた人がいた。

『…大丈夫です』
『はい、手』

大丈夫って言ったのに聞こえなかったんだろうか。
その人、ピンク色の髪をした彼はとても整った顔をしていて、長い前髪の隙間から私をじっと見たまま右手を差し出してくる。

『……私今濡れてて砂利もついてるし、あなたの手汚れちゃいますよ』
『そんなのへーきだよ。いいから手貸して』
『でも』
『汚くなんかないし、俺は気にしない。てかそんなことよりもこのままじゃ風邪引くって』

足元に転がり落ちている私の傘を彼は拾って、自分でさしていた傘で私をこれ以上濡れないように入れてくれた。
なんで、と思い逸らしがちな目で彼を見たら、彼はニッと口の端を持ち上げて、多分笑った。

『やっとこっち見た。同じ一年なんだ、名前は？』
『…Aです』
『俺綺麗な子は忘れないんだけどクラス違うのかな』
『綺麗なんかじゃないので…』
『ううん、Aちゃんは綺麗だよ』

まとわりつく前髪の隙間から見える優しい目からすぐに視線を逸らすのに、その人は有無を言わさず私の手を引いて立ち上がらせてくれる。
汚れることを気にも留めず、『一旦保健室に行こ』と地面に置き去りにしていた私の傘を持って自分にさしていた傘を私に持たせて濡れないようにしてくれたその人を、保健室に連れて行ってくれた彼の背中を、今、強烈に思い返している。