Feather (ページ31)

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きょうもとくんページ31

「去年から使ってるんだけど、誰かがここを開けてんの見たことないんだよね」
「去年…？京本くん、去年からずっとここにいたの？」
「体育の時はいるよ。あとは…隠れたい時とか」

京本くんが隠れたい時は、多分、分かる。
例えば京本くんを探している女の子たちとか、それこそ体育の時とか、京本くんの姿を見かけない時の避難先。
ここはそんな場所なんだろう。

「樹もたまにいるけど、女の子を連れてきたのはAちゃんが初めて」
「私に教えちゃって本当に良かったの？」
「どういう意味？」
「…私が悪い人間で、今度京本くんを探してる人がいたら、ここの場所を教えちゃうかもしれないじゃない」
「なんだ、そういうことか。それなら大丈夫」
「本当に？」
「本当に」

…そんな風に柔らかく微笑みかけられたら、冗談でも「教えちゃうよ」なんて言えなくなる。
京本くんは田中くんと同じで相手の目をちゃんとみて会話をする人だから、決して傲るような人じゃない。
それが分かっているからこそ、このカースト制のある学校で同じ目線で対等に話してくれることがどんなにか嬉しいだろう。

京本くんは倉庫室の奥まで足を進めると、古くなって置かれているシーツのかかった三人掛け用の大きなソファーに腰をおろす。
「Aちゃんもおいでよ」って自分の隣を軽く叩くから、「お邪魔します」と言って隣に座ると、京本くんは嬉しそうに頷いてくれた。

京本くんは私に何も聞かないまま、まるで自分の部屋にいるかのようにロッカーの中に入っている漫画の本を手に取って黙々と読んでいる。
たまにぺら、ぺら、とページをめくる音が心地よく聞こえてきて、なんとなく一点をぼんやり見つめている私には少しだけ安眠効果のようなものが感じられた。