Feather (ページ30)

今日:9 hit、昨日:5 hit、合計:107,279 hit

秘密の場所ページ30

教室に戻る階段を駆け下りた出会い頭、誰かにどんと真正面からぶつかった。
その反動で倒れ込んだ先にあったのは、大きく見開かれた目と金の髪。

「Aちゃん？」

廊下に背中から倒れ込んでいたのは京本くんだった。私はその京本くんに覆い被さるようにして、今、不思議そうな顔をしている京本くんを見下ろしている。

「ごめん！」

下敷きにして押し倒してしまっていた京本くんから慌てて離れて立ち上がると、「大丈夫だよ」って京本くんも立ち上がる。

「でもAちゃんは大丈夫じゃないみたいだね」
「え…？」
「気付いてない？」

そう言った京本くんの長い人差し指が私の頬の何かを拭う。
京本くんの第一関節あたりについた滴のようなものが私の涙だと気づくまでに少し時間が掛かったのは、私自身が泣いていたことに気付いていなかったからだ。

京本くんは解けたままの私のネクタイを何も聞かずに直してくれて、同じ目線まで屈んでくれる。

「どうしたの？また何か言われた？」
「……ううん」
「んー……じゃあ悲しいことでもあったとか？」
「…ううん、ないよ」
「でも泣いてる」
「…そうみたい」

他人事のように答えたら、京本くんは困ったように苦笑いをした。
でも「放っておけないよ」って京本くんはふんわり笑って、「次の授業はサボっちゃおっか」と私の手を引きながらサボタージュへと誘ってくれた。

「俺の秘密の場所、Aちゃんだけに教えてあげる」

悪戯が成功した小さい子どもみたいに笑う京本くんが連れてきてくれたのは、体育館から近い備品倉庫室。
ここには教室や会議室で使わなくなった机や椅子、事務用品なんかを保管している倉庫。

滅多に使われることのない倉庫なのにいとも簡単に鍵があいて驚いていると、「前に樹が開けてくれたんだよ」って京本くん。
確かに田中くんなら簡単に開けちゃいそうだね、って返事をしながらも、田中くんの名前を口にするとちくりと胸が痛む。

中へ入ると埃っぽくて薄暗いけれど、ドアをしめてしまえば外から聞こえる色んな音が遮断されて、静かな空間と少しの緊張感に包まれる。