【銀魂】エ ン ヴ ィ ー 彼 氏

彼氏:沖田総悟 友情出演:土方十四郎 1 ページ30

俺の彼女は、五つ年上の社会人である。絶賛学生身分を謳歌している俺とは違い、社畜になって毎日必死で働いている彼女は俺とは別の場所で生きているみたいだ。


そんな彼女、Aさんは俺の前でも甘えた様子は見せない。毎日毎日理不尽な上司にペコペコ頭を下げる赤ベコみたいな生活を送っているはずなのだが、その募った苛立ちを俺にぶつけることも、愚痴を零すこともしなかった。

そんなに俺は頼りないのかと思ってしまうが決して弱さを見せないAさんは俺の憧れでもあるし、純粋にカッコイイと思う。



しかし今から俺が話すのは、そんな彼女が俺に見せてくれた意外な……いや、隠していた一面だ。それを見た日から俺はAさんのことがもっと好きになったのである。



それは今からひと月ほど前のこと。その日は春の麗らかな暖かい陽が風に運ばれずに夜まで漂っていた。俺は大学のゼミ仲間と研究発表が無事に終わったことを記念して飲みに行ったのだ。


暖簾をくぐって入ればそこには仕事終わりのサラリーマンがごちゃごちゃと溢れかえっており、俺たちは予約を入れていたため直ぐに入ることは出来たはいいものの、注文を唱える声は仕事の愚痴や酔った笑い声でかき消されてしまうほど。

「うるせェなァ」と横目に見た俺だが、その視界の隅にAさんの姿が映った。詳しく言えば彼女の右斜め後ろの姿である。しかしそんなAさんの姿に少し目を疑ってしまったのは、彼女の背中がやけに小さく丸かったからだ。


そんな彼女はブツブツとなにかを呟きながら酒をちびりちびりと飲んでいた。その目の前に座っているのは俺の、俺たちの昔馴染みである土方十四郎。こいつはAさんと同じ歳で、中高大と共に過ごし、更に同じ職場というムカつくことこの上ない人生を送っている。


なんだその運命はと思うが、彼らは揃って「いやぁ？」と首を捻るのだ。お互いそういう対象としては見てないようで、実際俺が彼女に告白したら首を縦に振ってくれた。告白を了承してくれた時は正直言って「まじか」と思ったものである。

フラれるとは思っていなかったがフラれないとも思っておらず、ただただ俺に微笑んでくれたAさんの笑顔が瞼の裏にこびりついた。

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