破綻する犯行声明 _izw ページ11
※高校生パロ(共学)
「なあ、どう返せばいいと思う?」
大好きな君からの、些細な恋愛相談。
「……もう、また?」
伊沢くんが握るスマホには、付き合い始めたばかりの彼女さんとのトーク画面がうつされていた。
最初こそ「自分で考えなよ」と正しい返事ができていた。でも嫌われたくないんだと微笑む彼を見て、相談に乗ることにした。
『たっくーーん』
『髪切りたい欲出てきちゃった』
もちろん、彼女さんしか送ることが許されないような内容のメッセージを読むたびにすこし苦しくなる。
でも、その分頑張るのだ。無難で、傷つけない、つまらない返答をしてやろう、と。
わたしは上手くやっている。伊沢くんらしい優しさは残したまま、恋のときめきだけをガリガリと削り落としたような文を考える。得意になったって役に立たない力がメキメキと育つ。
「きっと短いのも似合うよ、なんてどう?」
それが、いまのわたしに一番必要な能力。
彼女さんが求めているのは、尖っていようが配慮に欠けていようが彼からのメッセージだ。それくらいわかっている。でも、絶対に教えてやらない。
「それだ」
たっくん呼びも髪の長さを彼に委ねるのも、なんなら急を要さないLINEを自ら送ることだって、他の人にはできない。
逆も然り。
本来ならば伊沢くんにしか与えられていない権利なのだ。彼女さんからのLINEを受け取るのも、返事を考えるのも。
彼女さんにバレて愛想を尽かされろ、とは思っていない。
ただ、じわじわと恋心が萎んでしまえ、とは思っている。彼は彼女さんを想ってるが故、返事に悩んでいるのに、想いを薄れさせるために動くわたしは最低だ。
毎日のように伊沢くんの代わりを務めるわたしと、疑いなくそのまま送る彼。
共犯のようで、罪の意識があるのはこちらだけ。そのもどかしさが心地よくて、悩んで眉を下げる君が憎くて、罪を重ねることに抵抗がないわたしが苦くて、つらい。
わたしなら、好きをいっぱい伝えて、愛されてるって気持ちで満たしてやるのになあ。
「彼女さん、髪切るのかな」
「絶対可愛いよなまじで」
……それ、伝えりゃいいのに。
ああ、そうだよな。こんな汚い女よりも純粋な彼女さんのほうがずっと可愛い。君の彼女に相応しいのは、どう考えたって君に罪を被せ続けるわたしじゃない。
伊沢くんと彼女さんを通して、わたしの性格の悪さが顕になっていくようで苦しい。
わたしの動機は、ひたすら君が好きだというだけなのに。
たったそれだけ。
唯一それだけがわたしの中で綺麗な感情だというのに。
『破綻する犯行声明』end
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作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年12月29日 21時