合縁奇縁ミッドナイト _ini ページ10
「……Aさん?」
俺が深夜のコンビニで声を掛けた相手は、簡単に言えば友達の、彼女の、友達。まあ、薄い縁の知り合いだ。
「え」
だから、たまたま見かけたくらいでわざわざ声を掛けてしまい、自分でもびっくりした。もちろん、彼女もすごく驚いているようですこしズレた眼鏡を直しながら目を細めて俺を見つめてくる。
「わ、やだっ、乾くん?」
そしてようやく認識したらしい彼女はパッと顔を隠した。
「え、ごめ、俺何かした?」
「何かしたっていうか、わたしが何もしてないっていうか」
彼女の言っていることがよくわからず、彼女の手元に視線を移した。買い物かごの中に入っているのは数本の缶チューハイとチータラとサラミ、ポテトチップスに、……
「あ、あんまり見ないで」
顔を隠していた手をかごの前にずらした。確かに、人が買おうとしているものをじろじろと見るのは失礼だった。
「そ、だよね。ごめん」
反省した俺は、見えるようになった顔に視線を移す。まあ、女性の顔をじろじろ見るのだって先程と変わらないくらい失礼だろうけど、変に視線を逸らすのもおかしいなと思ったのだ。
そうして自然と、沈黙が生まれた。でも俺は特に気まずさなんて感じていなくって、マスクを直しながらやっぱり彼女の顔を見つめていた。
マスクと眼鏡で顔はほとんど見えないけど、可愛らしい雰囲気は滲み出るもんなんだなあ。
「……引いた?」
なんて、誰かに心を覗かれたらきっと変態判定を食らってしまうだろうことを考えていたら彼女が怯えたように首を傾げた。
「えっ、ええと……何に?」
前に会ったときは、もっと明るい印象だった。そりゃあ昼間と夜中じゃわけが違うだろうけど、それにしても何にビクついているんだろう。
「すっぴん眼鏡にジャージで髪も適当で、ひとりで深夜にお酒とおつまみ買い込んでることに、」
Aさんにそう言われて中学名か高校名の入ったダサくて所々擦り切れたジャージに身を包んでいることに気がついた。
化粧をしていない顔も、自然にまとめられた髪も、眼鏡も、俺にはむしろ良い要素として映っていたことにも。
「待って、ほんとに恥ずかしい」
そう言ってもう一度顔を覆う姿を見て、胸の奥がきゅんと鳴った。
待って、待て落ち着け、俺。どう考えてもツボおかしいだろ。
だらしない姿まで愛せるのは素晴らしいことだけど、だらしない姿から愛し始めるのは、さすがにちょっと、ちょっと……
「Aさん、帰り送ってくよ」
そんなふうに考えたって、この気持ちはもう止められないのだ。
『合縁奇縁ミッドナイト』end
破綻する犯行声明 _izw→←捨てられる夢になりたかった _kwmr
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作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年12月29日 21時