どうしようもなく罪を重ねる ページ13
「……落ち着いた？」
そう微笑まれて、静かに頷く。自覚し直してしまった好意を心の奥底に閉じ込める。ぐーっとぎゅっと、届かないところまで。
見えないくらい遠くに押し込めば、いつか取り出したときにはしわくちゃになっていてくれるだろう。そう信じて、手元まで戻ってきた気持ちを追い返す。
見ないふりをするのが、正しい選択だとは思わない。それじゃあさっきまでとなにも変わらない。真に彼の望む友達として付き合うことができないのなら、会わないほうがいいに決まってる。でも、
「ごめん、やっぱり具合悪いから帰る」
……あれ、簡単だ。
そうじゃん、会わなければいいんだ。そう自分の中で決めたとてこの意志をはっきりと彼に告げる必要はなくって、一方的でもいいから離れればいい。
「お金置いていくから」
このまま会い続けるのは、わたしも辛いし彼にも申し訳ない。伊沢くんは友達だと思ってくれているのに、わたしばっかりあの頃と変わらないままじゃだめなんだ。
彼の隣が重荷だからって別れを告げたのに、自分ばっかり身軽になったふりをして結局隣にいちゃあ意味がないのだ。
「いや、送るよ。ひとりじゃ危ないでしょ」
「大丈夫だから」
さっきの涙の理由は意地でも隠し通して、これからの誘いは断り続けよう。そうすれば、さすがの伊沢拓司でも根負けしてくれることだろう。元々、わたしに割く時間なんてないくらい忙しいひとなんだから。
「大丈夫なわけないじゃん、お酒も入ってるんだし」
まっすぐに届く彼の言葉は、やっぱりわたしを苦しめる。
「ほんとに大丈夫！」
「大丈夫なら帰らないでよ」
大袈裟にわざとらしく断り続けるわたしに、きっと愛想を尽かしている。それでいい、それでいいから。もうこっちなんて見なくていいから。
「う、いや、それは……」
言葉に詰まる。そんで、彼の目線に吸い込まれる。
「……無理なんでしょ、わかってるから。帰り道で倒れられたりしたらまじで困るんだよ、送らせて」
あ。
またいつもの調子で言いくるめられるのがわかった。空気がぐっと彼に飲まれて、隙間を見つけだせないこの感じ。しゅんと眉を下げた雄弁な彼には勝てない。わかりきっていたことなんだ。
「じゃ……じゃあ、よろしく、ありがとう」
最後の思い出としては豪華すぎるかもしれないけど、まあいいか。すこし先の未来、この思い出に縋っちゃいそうでいまからため息が出る。
伊沢拓司はどうしようもなく罪な元カレだし、わたしはどうしようもない出来損ないの女友達だ。
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ウィンターくん(プロフ) - 更新うれしいです！ありがとうございます。ここのとこ2話で話がぐっと進んでますね…！ (2021年4月12日 8時) (
レス) id: 6c1e210fc5 (このIDを非表示/違反報告)
ぴの。(プロフ) - 初コメントです多分。あまりにも世界観に引き込まれすぎました。ここまで読んで続き！もっと読みたい！早く！ってなりました。読者側がこんなことを言うのも烏滸がましいのですが、文才溢れすぎてもう天才的で他のも読んだことあるのですが全て面白かったです。 (2021年4月10日 21時) (レス) id: 6d66e5d0a1 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» ウィンターくんさんいつもコメントありがとうございます！これからも頑張りますので、よろしくお願いします(^^) (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ゆゆこさん» ゆゆこさん、コメントありがとうございます。楽しみにして何度も読み直していただけたとのことで、とても嬉しいです（ ; ; ）これからはもうすこし更新頻度を上げたいと思ってます！これからもどうかふたりを見守っていてください！！ (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 更新嬉しいです。ご無理なさらず、でもこっそり続きをお待ちしています。 (2021年4月2日 19時) (レス) id: 0f9ee489eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぶっく。
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作成日時：2020年8月10日 23時
