ヒーローは遅れてやってくる ページ17
―そして迎えた本番当日。
A「えっ…と…」
今日は土曜日。
校内には誰もいないと思っていたけれど、その考えは甘かった。
A「…通してくれへん？」
授業はなくとも部活動は行われている。
自分だって散々土日に足を運んでいたくせに、すっかりそのことを忘れてしまっていた。
私の前に立ちはだかる2人組。
彼女らは一昨日の帰り道で出会った福本くんのクラスメイト。
「別に通したってもええけど」
機材や楽器等の必要なものは午前中のうちに先生とリチャ先輩、正門くんでライブハウスへの搬入を済ませたらしい。
つまり他のメンバーは現地集合というわけだが、私は例外。
私のギターはまだ部室に置かれたままだから。
「部室の鍵開いてへんで？」
A「え？」
「さっき職員室で鍵もらって閉めたし」
A「え、その鍵は？」
「うちが持ってる」
人差し指と親指で摘まれた小さな鍵。
彼女はそれを見せびらかすように揺らした後、すぐにポケットへとしまい込んだ。
「今日ライブらしいやん」
ここから会場までバスで20分。
このままだと集合時間は愚か、本番にすら間に合わない。
「行かれへんなあ、可哀想に」
こうなることは分かっていた。
だから彼らと関わりたくなかったのだ。
正直今だって鍵を取り返してまでライブに参加する必要があるのかと疑問を抱いている。
A「…私別に福本くんの何でもないやんか」
「そんなん当たり前やろ、大晴があんたなんかと付き合うわけあらへんやん」
A「…ほんなら何でこんなことするん？」
目立つことも誰かと揉めることも絶対にしたくない。
よく知りもしない人に敵意を向けられて攻撃されるのはもううんざり。
「ただ同じ部活に入ってるってだけで仲良しごっこしてるからやん」
手元のスマホが短く震えた。
小島くんから"今どこ？"と連絡が来ている。
―急がなくては。
A「ほんまにお願い。返してくれへん？」
この子の言う通り、ただの仲良しごっこに過ぎないのかもしれない。
だけど毎日顔を合わせるせいで芽生えてしまった情は簡単には消えなくて。
頑張っている彼らを見てしまった以上、私がそれを台無しにしたくはなくて―
「お前らそこで何してんの？」
―こんな時に助けが来るだなんて少女漫画の世界だけだと思っていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 401人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ﾋﾟﾝｷ | 作成日時：2023年1月17日 15時
