とある未成線の話【青春鉄道】

中山道さん３２ ページ35

・

「……言えませんよ。さすがに、これは現役路線に言って良いこと
ではありません。ただ一つ言えるのは、我々は禁則事項が多いとい
うことくらいですね」

　申し訳ありません。そう言った篠山鉄道に、東北本線は面白くな
さそうに、にわかに眉を寄せた。高崎線は不満を隠そうともしない。
彼等の間に座る東海道本線だけが、静かにこちらを見ている。

　それが一番まずいことだと、篠山鉄道は気が付いていた。


　彼は、元筆頭本線だ。頭は良い。中山道と共にいただけはあるの
だ。本線の中でも、誰も彼の前を歩かない。彼は上に立つ男だ。

　篠山鉄道はジッと東海道本線を見ていた。

「山陽本線でも呼ぶか？」

　東海道本線の言葉に、目を見開いた。
　山陽本線と言えば、自分達、西の地方鉄道の憧れの人だ。山陽、
山陰両本線はお偉いさんである。気安い彼等ではあるが、できるだ
け、今の自分の姿を見せたくない。

　しかし、それよりも――


「――あぁ、それとも、山陽さんでも呼ぶか？ その方が効果的な
んじゃないのか？」

　拷問を受けている気分だ、と篠山鉄道は思った。

　彼等は中山道のためならば、恐らく手段は択ばない。こちらも、
本調子とまではいかなくとも、ちゃんと頭で考える分の余裕はある。
動かないのは体だけで、至って元気なのだ。

　だから、彼等は手加減なしで本気で、自分を問い詰める気でいる
のだ。体が動かないなら逃げられない。頭が動くなら、己の状況を
正確に理解し、質問に答えさせる。本気の本気だ。拷問のようだ。

　だが――


「……篠山だけは呼ばんでください」

　弟分には、こんなにも醜い姿を見られたくない。

　こんなにも手酷い扱いを受けているなど知れば、彼は恐らく自分
を責めることになる。
　あの時期、確かにグレてはいたが、根は優しい良い子なのだから。

　それだけは、兄貴分として、何とか避けたい。


「お前が弟分の山陽さんを気にかけるように、俺達だって中山道が
心配なんだよ」


・

中山道さん３３→←中山道さん３１

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す