108話 苦しい距離 ページ21
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家に帰り着いたのは、18時を過ぎたころだった。
もちろん、それまでに和くんからのメールは入っていて
暗くなる前には帰りなさいよって、お父さんみたいなことを言われて。
ふはっ っと……苦笑いが出た。
お父さんみたいなセリフなんて、今までどれだけ言われてきたか。
それをイヤだと思ったことは……ない、と思う。
縮まらない距離……だけど近い距離……
それはとても心地良くて……でも……
なんでか今は、心の中が、いがいがする。
玄関の扉を開けると、
台所で夕飯の支度をしている和くんと目が合った。
「おかえり……ってうわぁー……焼けてるぞ？」
手にもっていたレタスをボウルに戻して
タオルでパパッと手を拭いた和くんは、
わたしの顔を覗き込んで、そして頬骨の辺りを二本の指で撫でる。
「赤くなってる……痛くない？」
ほら、ここも……
そう言って、頬から鎖骨へと下りた指が、
大きく開いた襟元の、露出している肌を撫でて……
思わず驚いて、身体が震えた。
そのことに和くんも驚いたみたいで、
手を引っ込めて、目を見開いて、わたしを見つめる……
「……痛かった？」
「……平気」
……驚いたのは、わたしが痛がったと思ったからか……
ささっとその場を離れて、
トートバッグの中の水着とタオルを洗濯機に放り込んで、
バッグはベランダの物干し竿に、洗濯ばさみで止めておいた。
台所に戻ってきて、料理の続きをする和くんの背中を見つめると
気配に気付いてなのか、和くんが振り返った。
「……元気ないね」
ニコッと笑ってそう言うと、和くんはまた
前へ向き直って、食事の支度をする……
……想いを告げたのは、
風間くんに、
だったのに……
ただ、胸の内を、
白状した、それだけなのに……
どうしよう、和くん。
和くん見てると、すごく苦しい。
無言のまま、動きを見せないわたしに違和感を感じたのか
和くんがもう一度振り返る。
「…………A」
心配したような、どうしたのよもう…って呆れているような、
そんな声でわたしの名前を呼んだ和くんは、
またタオルで手を拭いて……
ダイニングテーブルをぐるっと回って傍まで来ると、
なぜかわたしのことを、なんの躊躇もなく抱きしめてきた。
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作者名：あひる x他1人
作成日時：2015年10月7日 0時
