chaosと書いてケイオスと読む～短編集～ (ページ13)

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chaos/zero④ ページ13

それは、今から数年前の出来事だった。

私、染井吉乃は陰陽師の子孫として、修行の毎日を過ごしていた。
今の私と比べたら、多分物凄く死んだ目をしてたと思う。
毎日毎日、同じ修行。
あの時の私は何も考えられなかった。

そんな私が、久しぶりに夢を見た。
とは言っても、暗闇の中声が聞こえただけだけど。

「なんで？」
「ナンデ？」
「どうしてこうなるの？」
「ドウシテ？」
「おれは、おれは、ただ、ただ………」

「いっしょにいたかっただけなのに」

「いかないで」
「もどってきて」
「おれのせいだ」
「ちがう」

「コノセカイガワルイ」
「キエチャエ」
「イラナイカラ」
「ゼンブゼンブ」

少しずつ声がおかしくなっていく。

吉乃「ダメだよ」

堪らず叫んだ。

「いっしょにいたかった」、って事は。

吉乃「全部消えたら、君の大切な物も消えちゃうよ」
「エ………」

聞いていられなかった。
自分の心情を聞いているみたいで、嫌だった。

吉乃「投げ出したくなる気持ち、分かるよ」
吉乃「でもそれでヤケになっちゃダメ」
吉乃「きっと皆、悲しむ」

そこまで言ってふと疑問に思う。
果たして自分が死んで、誰か悲しむのだろうか。

否、誰も悲しまない。
どうせ私は道具だから。

でも、だからこの子を助けない理由にはならない。

吉乃「まだ、間に合うから」
「………」
吉乃「私も、頑張るから」

「お姉ちゃん」

声に精気が戻る。

吉乃「吉乃、私は染井吉乃」
「吉乃姉ちゃん、ありがとう」

声が遠ざかる。

「だから、今度は、俺が吉乃姉ちゃんを助ける」

意識が上がっていく。

吉乃「待って！貴方の、名前は！？」

「俺は、俺の名前は…」

私が覚えているのは、ここまで。