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いつまでたっても何も話さない私に、青年は嫌気がさしてきたらしい。片眉を下げながら、私の目線に合わせる様にしゃがんできた。
よくよく見ると、この青年は随分と端正な顔立ちをしている。別にそういう専門的な知識は持ち合わせていないが、青年の顔は世間一般的に言えば「顔がいい」方なんじゃなかろうか。こんな場所でそういう人とは出会いたくなかったと思いつつも、頭の中で彼の言葉に返答するために、頭の中でゆっくりと言葉を紡いだ。
「……ぁ、あの」
ようやっと出した声は酷く掠れていて、思わず反射で咳払いをする。青年は目を見開いて、黙って私の背中をとんとんと叩いてくれた。めちゃくちゃ緊張して怯えていたけれど、割と心優しいタイプらしい。
「……ごめんなさい、私もこんな場所、分かんないんです。気が付いたら、此処にいて……」
途中途中、言葉が詰まる。それでも必死に言葉を繋ぎ止めて、何とか言い切った。青年が訝し気に眉を顰めたけど、そんなの知ったこっちゃない。だって、私は何も知らないんだから。しょうがないよね、と割り切って、青年から目を逸らす。
視界に映る青年はぼやけていたけど、変わらず眉を顰めたままだった。その表情をしたいのはこっちなんだけどなぁ、と思いつつ、下唇を噛む。
数秒間の沈黙が訪れて、何も聞こえなくなった。静寂は暫く(といっても30秒くらい)破られることはなかったけど、青年が息を吸い込む音と、遠くから聞こえた轟音で、静けさは終わった。
「……あ、やべ」
青年が、はっきりとそう口にした。何がやばいのか分かっていないけど、遠くから聞こえていたはずの音がどんどんと近くなってくるのに戦慄する。彼はたぶん、この音の根源を知っているんだろう。
……無知とは怖いものだ、という言葉を今更ながら思い出す。いやはや、この言葉がこんなにも似合うタイミングって、なかなかないんじゃないか?
そんなことをぽやぽやと考えている間にも、轟音はどんどんと迫り続けている。青年は手に持っていた機械をちょいちょいといじったのち、私のほうをじっと眺めてきた。その眼は迷っているように暫く揺れていたけど、青年は意を決したように私の手を無理やり掴んだ。
私が声を上げる前に、というかこの状況を理解する前に、が正解なんだけど。私の手はそのままぐいっと引っ張られ、そのまま私は彼の体に凭れ掛った。
「ごめんね、ちょっと我慢してて」
その声と同時に、景色が反転した。
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ぴすけっとの遊び場(プロフ) - りゃまさん» うわ〜!!コメントありがとうございます🙇♀️ 毎回お題に工夫を入れたり、言葉選びには気を遣ったりしているので、そのお言葉とっても嬉しいです🙌 これからも頑張ります……!!嬉しいお言葉、本当にありがとうございます!!!! (2021年12月13日 19時) (レス) @page4 id: af576e9416 (このIDを非表示/違反報告)
りゃま - 初めまして、! お話の構成、言葉選び、口調等々、とても好きです! お話の設定された題材等、とても大好きです…… 個人的にとても大好きです、これからも頑張って下さい! (2021年12月13日 0時) (レス) @page4 id: b71400f95b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:健康優良児ぴすけ | 作成日時:2021年12月5日 17時