第仇話、遁走 ページ9
暗闇と静寂が包みこむ横浜の夜。
さらにその奥深くに潜む闇の中を、ある一人の男が走っていた。
未だに体中から汗が吹き出し、寒気が止まらない。鳥肌も立ったままで、縺れそうになる足を懸命に動かす。
「なッ、なんで、なんで…!」
浅い息を繰り返し吐き出すと共に零れる疑問。
俺は夢でも見ているのだろうか?これは悪夢なのか?
けれど、夢ならば_悪夢ならば、この頬から流れ出る赤い液体の正体は。限界が近い足の痛み、呼吸するごとに感じる苦しさの理由は。
答えは、たったの一つしかない。
男は振り向く。
視線の先には、血濡れたナイフを持って走り迫ってくる男がいた。不気味なのは、その男も汗をかき、表情が恐怖の色に染まりきっている事。
「たッ、たす、たすけ」
夢でも悪夢でもない。紛れもない現実だ。
悲鳴を上げる。助けてくれと乞う。
誰でもいいから、この
足が縺れる。次の瞬間には目の前にコンクリートが迫る。
気づけば頬は擦り剥き、足は麻痺したように動かず、開いた口は呼吸をするのに必死だった。視線だけを男に向ければ、もう目と鼻の先にいた。
目を閉じた。
肉が切れる音と呻き声がした。
男自身かと思えば、そうではなかった。何故なら、意識があるからだ。故に、くるはずの痛みが襲ってこない。
恐る恐る目を開けば、血の海を作る死体が一つ転がっている。
悲鳴を上げるよりも、疑問が頭の中を覆いつくす。
一体誰が。
その時、靴音がした。
「騒がしい害虫ともなれば、飛沫く様も美しくないのう。つまらんことじゃ」
頭上から降ってきた女の声に、ハッとして顔を上げる。
そこには月光を背負う和装の女_尾崎がいた。
艶やかな紅い前髪がはらりと揺れ、冷たい瞳が姿を現す。
男は乾ききった唇を動かす。
「あ、んた、は……?」
「其方、この一帯がポートマフィアの庭である事を知らぬのかえ」
途端、人の気配がした。
それも一人ではなく、複数。
無理やり体を起こしてみれば、黒服を纏う構成員達が銃口を向けていた。
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RANA(プロフ) - ゆかりさん» 遅くなりましたが続編で来ました!続編でも読んでいただけたら幸いです。 (2021年8月1日 21時) (レス) id: 1320bd10d0 (このIDを非表示/違反報告)
RANA(プロフ) - ゆめのあきさん» そう言って頂けて嬉しいです!ありがとうございます (2021年8月1日 21時) (レス) id: 1320bd10d0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆかり - 続き待ってます (2021年7月23日 16時) (レス) id: be99c0bfdf (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのあき(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです! 更新楽しみにしてます! (2021年7月15日 1時) (レス) id: e1a96e1817 (このIDを非表示/違反報告)
RANA(プロフ) - らむくんさん» そうなんです……シリアスをシリアスにできずに本当に申し訳ないです切腹 (2020年8月14日 1時) (レス) id: 37ff009e06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:RANA | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php?svd=seb
作成日時:2020年8月2日 13時